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システムデザイン学部 電子情報システム工学科
キーワード
さまざまな物質を検出する誘電泳動
物質を電気で動かす
液体中の荷電物質が電場のもとで移動する現象を「電気泳動」といいます。タンパク質などの生体分子は通常電荷を帯びているため、こうした現象が確認できます。本来、物質に電荷がない場合は動くことはありませんが、特定の条件で電圧をかけると、マイナスの電子とプラスの核の電荷バランスが崩れて物質が動くことがわかってきました。これは、「誘電泳動」と呼ばれています。10ミクロン程度のごくわずかな空間で行えば、小さな電圧でも電荷を帯びていない物質を動かすことが可能なのです。
微生物検知で食中毒予防
細菌は大きさが1ミクロン程度で、重さもほとんど変わりません。そのためある菌の発生状況を調べるとき、フィルターや遠心分離器で種類を分けることはできず、現在はほぼ培養に頼っています。培養は特定の菌が育ちやすい環境を与えることで、菌の存在や状況を調べるものです。例えば食中毒や院内感染のようなケースでは、一刻も早い原因究明が必要となりますが、培養では調べるのに数日間かかり、しかも増殖した次世代の菌しか確認できません。そこで、誘電泳動を使った細菌のモニタリングシステムが開発されました。誘電泳動では、そこにいる菌を瞬時に分けて調べることができます。検査は簡単でコストも安いため、実用的な商品が開発されれば、飲食店や家庭でも毎食時の検査も可能となるでしょう。また、口の中の細胞を少し採れば、インフルエンザウイルスも簡単に検出できます。
さまざまな問題解決の糸口に
また、環境問題への応用も考えられています。SDGs(持続可能な開発目標)で定められた目標の一つに「海の豊かさを守る」があり、特に海洋を汚染するマイクロプラスチックは大きな問題です。誘電泳動は小さなナノ粒子を検出できるので、検査機器を小さな太陽光パネルとともにブイで浮かせることで、マイクロプラスチックの流出状況を簡単に調査できます。
このように電気電子工学による一つの技術を、さまざまな分野の問題解決に役立てることができるのです。
医療や農業に役立つ「プラズマ」の力
物質は三態だけではない
物質には固体・液体・気体の3つの状態があり、これを物質の三態と呼びます。しかし、物質の状態はこの3つだけではありません。気体を構成する分子から電子が飛び出して自由に動き回る第4の状態があり、これを「プラズマ」と呼びます。雲と大地の間で放電が起きる雷は、高い電圧により電子が放たれたプラズマの状態です。プラズマが大気にぶつかると、大気中の窒素分子や酸素分子が刺激され、光を放ちます。太陽から吹き出す太陽風もプラズマで、これが大気に当たって発光したものがオーロラです。宇宙を構成する物質の99%はプラズマ状態だといわれていますから、物質の三態が見られる地球は、宇宙の中では特異な環境だといえるのです。
プラズマを医療に利用
プラズマは人工的にも作ることができ、照明器具に使われる蛍光灯などに利用されています。蛍光灯が光るのは、放電により内部の水銀がプラズマ状態になり発光するからです。以前はプラズマをコントロールできるのは真空中だけでしたが、近年では微小空間であったり、ガスを選べば大気圧中でも扱えるようになりました。
そこで、医療分野でプラズマをがん細胞に照射する治療が試されています。プラズマ照射は、物の表面を削り取ることができるほか、分子の再結合や殺菌も可能です。刺激により、がん細胞を正常な発育のサイクルに戻すこともできます。現在、がん治療は外科手術、放射線、薬剤、免疫療法により行われていますが、それらに次ぐ新たな方法として注目されています。
作物を育てるプラズマ
「雷の多い年は豊作になる」「雷が落ちた場所にキノコがよく育つ」といった言い伝えは日本各地にあります。雷はプラズマなので、雷が落ちることで化学反応が起きる、病気の作物が正常な状態になる、電気の刺激が作物の成長の起点になり収穫量が増えるなどの効果が考えられます。すでに農業分野でもプラズマを取り入れた栽培が行われています。プラズマの研究は、これからもさまざまな分野に生かされていくでしょう。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
自分が専門にすると決めたことをコツコツと勉強すれば、積み重ねにより力がつくのは間違いありません。しっかりとした実力を身につければ、例えば野球の投手なら年齢に合わせた投球フォームに変えたり、直球勝負から変化球を混ぜた配球にしたりすることができます。
それには、自分の核となる分野をまず極めてみることが大切です。中途半端に何度も変えることは、どっちつかずとなる場合があります。これぞ!という自分の「武器」を手にして、そこからいろいろなことに興味を広げてください。
夢ナビ編集部監修