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システムデザイン学部 航空宇宙システム工学科
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航空宇宙システム工学の誕生

缶ジュースのように小さな人工衛星
従来からあった「航空宇宙工学」に対して、「航空宇宙システム工学」という学問は、比較的新しい考え方です。これができたきっかけを紹介しましょう。
「カンサット」と呼ばれるものがあります。1998年にアメリカのスタンフォード大学のトィッグス教授が提唱した模擬人工衛星で、缶ジュースほどの小さなサイズに、電源や通信機、コンピュータなど、人工衛星の基本的な部品を詰め込んでいます。
このカンサットを地上4000メートルまで打ち上げて、GPS機能を利用して目標地点に着陸させる競技が、日本でも2000年ごろから広まっています。
うまく動いてくれない「カンサット」
カンサットを構成する主要部品は、せいぜい4つか5つくらいです。ところが、これだけ簡素な構造の人工衛星でも、思ったように動いてくれない場合があります。個々の部品を完全に作り上げることは簡単で、一つひとつの部品はちゃんと動作するのに、つなぎ合わせるとなぜかうまくいかないことが多いのです。
それはなぜなのだろう、と考えてみたところ、部品同士を最適な形でつなぐ「インターフェイス」や、全体を統括する「システム」の研究が、もっと必要なのではないか、という結論が出てきました。
最初に全体のシステムをデザインしていく
部品Aと部品Bを組み合わせたものが正常に動いていたとして、そこに部品Cを入れても、うまく動くとは限りません。AとC、BとCの最適なつなぎ方を考えたうえで、さらにAとBの組みあわせにCを入れても動くことを確かめなければなりません。一般に、n個の部品が組み合わせたときに正常に動作するかどうか確認するには、2のn乗に比例する作業が必要となります。100個の部品があれば、2の100乗もの組み合わせがあるということです。
こうなると、個々の部品を作ることから発想するより、まず全体のシステムをデザインすることから考えたほうが効率的です。「航空宇宙システム工学」とは、そのような「システムをデザイン」していく学問なのです。
複雑な仕組みの人工衛星を、上手に動かすには?

たくさんの「メンバー」で構成される人工衛星
地球や宇宙を観測するために打ち上げる人工衛星。その仕組みは大変複雑です。宇宙から地球の写真を撮影する場合を例にとって説明しましょう。まず、人工衛星は太陽や星の位置を観測して、自分のいる位置を正確に知る必要があります。次にロケットを噴射して軌道を変え、地球にカメラを向けます。さらに撮影して集まった情報を分析し、地上にデータを送ったり、新たな指令を受け取ったりする必要もあります。
これらの機能それぞれが、人工衛星を構成する「メンバー」なのです。逆に言うと、たくさんのメンバーが集まったものが、人工衛星という一つの形になっているのです。
独裁制が良いか、合議制が良いか?
人工衛星の「メンバー」は、どのように情報のやりとりをすれば効率が良いのでしょう。誰か一人のメンバーが独裁者として強いリーダーとなり、ほかのメンバーはその指示に従うのがいいか、それとも全員が対等の立場となり、合議制で情報を交換し合うのがいいか。一般的には小さな衛星なら独裁制、大きな衛星なら合議制が良いと思われますが、このような「複雑な機能(メンバー)を組みあわせて一つの仕事をさせる」ための優れたインターフェイスを研究するのが、航空宇宙システム工学という学問なのです。
システムとして全体を「統合」させる技術が重要
機能の一つひとつが完全なものだったとしても、それらをただつなげばすぐに問題なく動くというものではありません。また、動かなくてどこに問題があるのかを探る場合、再び機能をバラバラにして調べても、原因がつかめないことがあるのです。なぜなら、システムには「つなげたことで問題が生じてしまう」ケースがあるからです。
一つひとつの機能を高性能化させることは大切です。しかし、システムとして全体を「統合」させる高い技術が、21世紀の航空宇宙工学では、ますます重要視されるでしょう。
参考資料 1.資源分配の最適化手法の提案(102KB) 2.超小型衛星システムの概念設計(959KB)
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
高校時代は、勉強に限らず読書や部活動、旅行など、いろいろなことに興味を持ち、経験してください。幅広い知見は新しい発想の卵になるからです。また一つのことをやりとげ、人と人との関係について学ぶのも大切です。宇宙工学の現場は意外に体育会系で、みんなで協力し合うことが多いからです。21世紀の宇宙は、どんどん楽しくなりますよ。宇宙のことが一つわかったとしても、その向こうにはまた新たな未知の世界が見えてくるからです。新しいテーマはいくらでもあるので、柔軟な発想を持って飛び込んできてほしいと思います。
夢ナビ編集部監修