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理学部 物理学科
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宇宙のダークマターの正体、ダークバリオンのありかを解き明かす
人間が知っている物質は宇宙の4.6%
人間が目にし、手に触れられる物質は、原子や分子(バリオンと分類されるもの)によって構成されています。ところが、こうした通常の物質は、宇宙全体を構成する要素の4.6%でしかありません。残りの約72%は「ダークエネルギー」、23%は「ダークマター」とそれぞれの性質から呼ばれています。ダークという言葉は、目に見えず、正体がわかっていないという意味で宇宙物理の分野でしばしば使われます。通常の物質すら、半分以上が宇宙のどこにあるか確定しておらず、「ダークバリオン」と呼ぶことがあります。
裏付けられたダークマターとダークエネルギー
ダークマターとダークエネルギーの存在は、これまでにも、さまざまな宇宙観測でわかっていました。その存在量を1%の精度で明らかにしたのは、2003年、アメリカが打ち上げた宇宙探査機WMAPが、ビッグバンから約38万年後にプラズマ状態だった宇宙が「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる時期に入った頃の痕跡である「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」を、数年にわたって精密に観測した地図が決め手でした。WMAPの観測したCMBのゆらぎのパターン、遠方の超新星爆発の明るさ、宇宙にある銀河団の質量と数密度の観測を組み合わせ、宇宙の組成が推定されました。
明らかになるか、ダークマターとダークバリオン
これらの正体を突き止めようとする研究は、世界各国で盛んに続けられています。ダークエネルギーはまだ不明な点が多く、観測方法も模索段階です。一方、大きな質量を持つと推測されるダークマターについては、加速器で加速した素粒子を衝突させて作り出そうとする研究や、カロリメーターと呼ばれる観測装置を用いて、自然界に存在するダークマターが装置に衝突したときのわずかな温度上昇をとらえようとする観測が試みられています。ダークバリオンについても、X線観測でありかを探る計画が練られてます。ダークマターの正体やダークバリオンのありかが明らかになる日も近いかもしれません。
宇宙の謎を解き明かす、X線天文衛星の活躍とは?
目には見えない宇宙の姿を観測するために
宇宙観測を行うとき、私たちの目に見える可視光でとらえられる宇宙の姿は、そのごく一部でしかありません。宇宙ではそのほかにも、電波や赤外線、X線など、さまざまな電磁波が飛び交っています。可視光だけではとらえきれない宇宙の姿を観測するための手段として期待を集めているのが、宇宙から届くX線を観測する「X線天文衛星」です。地上では大気の影響でとらえられない宇宙からのX線も、X線天文衛星であれば子細に観測することが可能になります。
日本はX線天文衛星の先駆的存在
日本におけるX線天文衛星の歴史は古く、1979年の「はくちょう」に始まり、その後「てんま」「ぎんが」「あすか」「すざく」と、合計5台の衛星が打ち上げられてきました。次に日本が打ち上げることになっているX線天文衛星の「ASTRO-H」では、従来よりさらに広い波長域のX線を観測できるX線望遠鏡が搭載される予定です。
この望遠鏡は、私たちが知っているレンズを組み合わせた可視光の望遠鏡ではなく、反射膜コーティングを施した円筒形の鏡を同心円状に重ね合わせることで、そこに入ってきたX線の角度をわずかに変えて集める仕組みになっています。原理的には身近なデジカメに使われているものと変わらない仕組みのCCDセンサーで撮影を行ったり、液体ヘリウムよりもさらに低い温度で動作するマイクロカロリメーターという観測装置でX線が到達した際の温度変化を検出して、そのエネルギー量を精密に測定したりすることが可能になります。
宇宙の謎を解き明かすために欠かせない存在
超新星爆発やブラックホール、銀河団など、宇宙におけるさまざまな現象にはまだ数多くの謎が残されていますが、それらから発生しているX線をX線天文衛星でとらえて分析することは、宇宙の謎を解明していく上でも大きな足がかりとなります。X線天文衛星による宇宙観測は、宇宙の成り立ちと進化を知る上で、今や欠かせない手段なのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
高校生の時は、自分の興味のあることに一生懸命取り組んでみてください。私は計算機やものづくりが好きでしたが、それを自分の得意技にして、「生きていくための軸」にすることができました。もう一つ大事にしてほしいのは、人間関係です。私たちが取り組んでいる研究分野では、外国の人ともコミュニケーションを図れる能力が必要になります。得意技とコミュニケーション力、ぜひ、この二つの軸を持てるようになってください。
夢ナビ編集部監修