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理学部 物理学科
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原子の並び方や組み合わせを変える「現代の錬金術」

新しい機能を持つ物質の創出
原子の並び方や組み合わせを人為的に変えると、物質の性質は劇的に変わります。試行錯誤しながらこれを繰り返すことで、私たちの生活に役立つよう開発されてきた高性能な物質は、さまざまな場面で現代社会を支えています。ハイブリッドカーのモーターに使われるネオジム磁石、リニアモーターカーに不可欠な超伝導体、IT機器に内蔵される半導体など、多種多様です。
今までになかった性質を持つ物質を創り出すという点で、このような研究は「現代の錬金術」と呼べるでしょう。
原子の「ガラガラ」
こうした研究の一つに、かご状構造を持つ物質に着目したものがあります。
多数の原子が並んでかご構造を形成し、そのかごの中に希土類イオンなどの原子が入った結晶構造をこの物質は持っています。かごは大きいので、中の原子は動くことができます。ちょうど赤ちゃんをあやすガラガラのおもちゃのような状態なので、この特徴はラトリング(英語でガラガラのこと)と呼ばれます。
このようなラトリング構造を持つ物質の本格的な研究はまだ始まったばかりですが、原子の組み合わせを変えることで磁石や超伝導になることが発見され注目を浴びています。果たして、この物質を私たちの生活に役立たせることができるでしょうか?
物質が熱を電気に変える
この物質は、面白いことに、熱を電気に変換する能力も持っているのです。温度差のある二つの場所をこのような物質で橋渡しすると、物質の両端に比較的大きな電圧が発生するので、熱を電気に変換できるのです(熱電変換)。自動車や火力発電所の排ガスなど、さまざまな場所で熱のエネルギーが捨てられています。これを電気に変えて回収できれば、エネルギー問題の解決に役立つ革新的技術になります。ラトリング物質は、この熱電変換の有力な候補物質です。NASAも、太陽の光が届かない宇宙空間を飛行する人工衛星の電源に利用すべく研究しています。研究が進めば、将来私たちの身の回りのさまざまな場所にガラガラ物質が使われるかもしれません。
ある時は磁性体、またある時は超伝導体、変幻自在のかご状物質

かご状物質の性質は変幻自在
超伝導研究の最先端では、多数の原子が形作ったかご構造の中に別の原子(希土類イオンなど)が入った、新しいタイプの物質が注目を浴びています。
超伝導とは、電子と電子がペアになって、物質内をスルスルと摩擦なく流れる現象ですが、上記のかご状物質では、かご内の原子の振動が電子のペアの形成に役立つことが明らかになってきました。一方、希土類イオンは磁石の源になる「f電子」と呼ばれる電子を持っているので、原子の組み合わせを変えることにより磁性体になったり超伝導体になったりします。かご状物質は変幻自在のユニークな性質を備えているのです。
新しい物質を合成する方法
フラックス法と呼ばれる物質合成方法があります。まず、原材料と一緒に、スズのような低い温度で液体になる金属を石英管内に閉じ込めます。これを電気炉の中に入れて高温にすると、液体になった金属中に原材料が溶け込みます。その後、1カ月かけて温度を徐々に下げていくと、塩水中に塩の結晶がゆっくりと成長するように、目的物質の結晶が液体金属中に成長してきます。最後に、余計な液体金属を遠心分離により取り除きます。
指先ほどの小さな電気炉に原材料を入れ、巨大なピストンでこれを加圧しながら結晶を育成する手法も使います。地球内部そっくりの高温高圧の環境では、かごの中に入り難い原子を強制的にかご内に入れることができるからです。
新しい物質は新しい性質を持つ
このように、自然界には存在しない原子の並び方や組み合わせを持った物質を人工的に作り出し、その性質を調べ明らかにする研究分野が「物性物理学」です。新物質の合成では、どのような原子をどのような割合で組み合わせるか、温度を何度にして合成するかなど、経験や知識を頼りに試行錯誤を繰りかえす地道な作業が必要となります。しかし、多くの場合、新しく合成された物質は新しい性質を備えているものです。さらに時折、これまでの常識を覆す新現象が突然現れるのです。物性物理学は、わくわくする研究分野なのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
大学の物理学コースに入学すると、3年生までは主にインプットの段階で、すでに確立された科目を学びます。しかし、4年生になり卒業研究がスタートすれば、いよいよアウトプットの段階。最先端の研究に触れながら、答えのない問題にチャレンジします。だから、学会で発表できるような新発見のチャンスが4年生でもあるのです。実際に私たちの研究室からもそんな発見が出ています。4年後、さらには大学院でわくわくする研究生活を送りながら思う存分プレーできるように、理数系のさまざまな基礎力を今から着実に身につけましょう。
夢ナビ編集部監修