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理学部 物理学科
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「カーボンナノチューブ」が、あらゆる分野に活用される日

ナノ物質研究の歴史
1990年代から、分子や原子という極小の世界を扱うナノテクノロジーの研究が盛んに進められるようになりました。しかし、ナノ物質の研究自体は、1970年代から行われていたのです。当初は、グラファイトと呼ばれる、炭素が層状となった化合物が研究対象となっていましたが、1985年に、フラーレンというサッカーボール状の構造をしたナノ物質が発見され、さらに1991年にナノチューブという筒状のナノ物質が発見されると、ナノ物質の研究が飛躍的に盛んになりました。
構造によって性質が変わる
ナノチューブとは、網の目のように結合した原子が筒状の構造になったナノ物質です。筒の直径は約1ナノメートル(10億分の1メートル)であり、筒の巻き方など、その構造によって性質は大きく変わります。
炭素原子でできた「カーボンナノチューブ」を使うと、非常に軽くて丈夫な物質ができるため、ゴルフクラブやテニスラケットなどの素材として実用化されています。将来的には、地上と宇宙空間をつなぐ「宇宙エレベータ」の材料として使えるのではないかと期待されています。カーボンナノチューブは構造によって性質が変わり、電気を流しにくい半導体のものや、電気をよく流す金属のものがあります。半導体の性質を持つものは次世代コンピュータの素材として使用できます。また、チューブ構造は表面積を大きくとることができるので、電気伝導性があるものは大容量のバッテリーに活用することができると考えられています。
ナノチューブ研究の課題
まさに夢の物質とも言えるカーボンナノチューブですが、実は、大量生産が極めて難しいことが、実用化への障害となっています。カーボンナノチューブを少しずつ作ることはできますが、それも、さまざまな種類のカーボンナノチューブがばらばらに混ざった形で生み出されているのが現状です。同一の構造のカーボンナノチューブを、ある特定の方向性を持つそろった状態で大量に生産する方法が確立されれば、次世代のブレイクスルーが実現できると言われています。
ナノがエネルギー問題を解決する?

ナノとマクロの世界の違い
私たちの目に見える普通サイズの世界、いわゆるマクロの世界では、結晶や金属などの物質は1モル(6×10の23乗個の原子)を基準に考えます。一方、ナノとは、原子や分子が数10個からなるナノサイズの極小物質を対象とします。 例えばナノの研究で注目を集めている「カーボンナノチューブ」という筒状の物質は、直径1ナノメートル、つまり10億分の1メートルという大きさであり、その円周方向はわずか数十個の炭素原子からできています。ナノ物質の特徴は、原子の並び方や形によって、大きく性質が変わるというところにあります。そうした特徴を利用して、新たに役立つ物質・構造を作り出そうという研究が進められているのです。
ナノの利用法
ナノの構造をとることでさまざまな面白い性質が出てきますが、そのひとつとして、熱電変換の性能が上がるということが挙げられます。熱を電気エネルギーに変換する効率が向上するのです。ナノの形をうまく制御すると、熱は流しにくいが電流はよく流すという状況を作り出せると予想されています。世の中には無駄になっている熱が大量にあるので、その熱を効率的にエネルギーとして利用することができ、エネルギー問題の解決につながることも期待されています。例えば、体温によって電気を発生させてセンサーを駆動させるなどということもできるかもしれません。
ナノの研究のポイント
ナノの性質が変化する要因として、どういう構造をしているかということと共に、その物質がどのくらい電子を持っているのか、ということも重要です。発現する性質については、計算によって理論上の予測を立てることは可能ですが、実際のところは実験を繰り返さないと確かめることができません。 新しいナノ物質・構造を生み出し、それがどういう性質を持っているか、また、その性質はどのようにして制御することが可能なのか、これを突き止めることが、今後の科学と技術の発展につながっていきます。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
科学の世界は、個人の「これを知りたい」という思いを原動力にして、まわりから何を言われても研究をやり遂げる、ということの繰り返しによって発展してきました。
あなたも自分がやりたいと考えていることを、とことん突きつめてください。自分で目標を定めたならば、そこに向かって努力を惜しまず突きつめて、自分自身がやりたいことをやり抜くこと、やりきることが大事です。それは大変な道かもしれませんが、科学者の道というものが、面白い道であることは間違いありません。
夢ナビ編集部監修