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東京都立大学の「学び」を体験! ― 堀田 貴嗣

Profile
堀田 貴嗣 教授
  【教員紹介】

理学部 物理学科

キーワード
磁力, ネオジム, 物性物理学

磁石の秘密を、電子の研究で解明する!

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磁力はどうして発生するのか?

磁石は、なぜ磁力を持つのでしょうか? 極小の世界から見てみましょう。磁石を構成する物質は、原子から成り立っていて、その中に電子という素粒子が存在します。電子はそれぞれが電荷を持った小さな磁石のような存在で、たくさんの電子が同じ向きにそろうと、その物質が磁性(磁力)を持つのです。
現在、スマートフォンやハイブリッドカーなど、電子・通信技術をはじめとする多くの分野で、小型で強力な磁石が必要とされています。どのようにして強力な磁石を作るか、その研究のためには、磁性を発生させる元となる電子の世界を知ることが肝心です。

強力で高温に耐える磁石の研究開発

強力な磁石を作るには、いろいろな方法があります。素材の研究もその一つで、現在最も強力とされているのは、「ネオジム」という金属に鉄とホウ素を混合した磁石で、携帯電話の振動音用バイブレータなどにも使われています。磁石は高温では磁性が消えてしまうことが知られています。自動車などの高熱を帯びる機械に使用される場合は、ある程度の高温でも磁性を維持できる磁石が求められます。
磁性を持つのは、金属だけではありません。放射性元素など、まだまだ物性(物質の性質)の研究があまりされていない物質もあり、低温や高圧の状態でどんな磁性を持つかなどの研究が待たれています。また、ネオジムなどのレアアースは、貴重な資源です。研究が進めば、もっと安価なありふれた元素から強力な磁石を作れる時代が来るかもしれません。

目に見えない「電子の世界」の理論

磁性は電子の向きがそろうことで生まれますが、現在盛んに研究されている「超伝導」でも同じような現象が起こります。電子が一斉に同じ状態になることによって、物質の電気抵抗がゼロになるという超伝導状態が生まれるのです。超伝導も磁性も目に見える現象ですが、その原理は、目に見えない「電子の世界」で成立しています。電子の世界の動きを知るため物性物理学や量子力学の分野で、研究が進められているのです。

スーパーコンピュータでも計算しきれない電子の動きをとらえるには?

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電子の動きを、正確には計算できない!

電流は、電子という小さい粒子の流れで、物質の中を電子が流れる際に生じる抵抗が電気抵抗です。電気抵抗の値を正確に計算するというのは、実はとてつもなく難しいことなのです。
古典的な力学でも、原子のスケールで物の運動をとらえる量子力学でも、1個の粒子の運動を計算することはできます。しかし、たくさんの粒子の運動を正確に計算することはできません。固体中の電子の数は膨大です。例えば水素の電子は、水素1グラム中に6×10の23乗個あります。たとえ最先端のスーパーコンピュータを使って、宇宙が誕生してから現在までくらいの時間をかけても、その数の電子の運動を解くのは無理だと言われます。

近似状態を見つけることが大事

量子力学は、電子や原子というごく小さな世界で起きる現象を説明するための理論です。多数の粒子の動きは正確に計算することができないので、おおよそこうなるという近似状態を出すのです。それは、現実の風景を見て絵に描くのと同じように、現象の本質をとらえた絵を描くようなものです。実際の現象をうまく説明できる近似状態を見つけ出すことができれば、それはノーベル賞級の研究になると考えられます。

現実の現象を扱う「物性物理学」

目に見えない電子の世界の出来事も、目に見えることがあります。それが磁石(磁力)です。磁石は、物質内の電子がそろって同じ向きになることで、磁力を発生させます。電子の世界の出来事も、たくさんの同じ状態が集まると、私たちの世界に影響を及ぼす現象を起こすことがあるのです。物質の性質を電子レベルでとらえるための学問を「物性物理学」と呼びますが、物性物理学とは、あくまで、現実の物質、現実の現象を対象にした学問です。
実際に、パソコンやスマートフォンをはじめとする最新の電子・通信技術には、量子力学と物性物理学の成果が大きく反映されています。これらは理論だけの学問ではなく、さまざまな形で人類の役に立つ学問なのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

高校生から、研究者になりたいという声をよく耳にします。でも、いざ実際に受験を前にすると、大変そうだからとあきらめてしまう人が多いようです。もし研究者になりたいという夢があるなら、10代であきらめないでください。研究者になるための勉強を続けていれば、結果としてならなかったとしても、いくらでも道はあります。
大切なのは、「できることをする」のではなく、「自分のやりたいことをする」ことです。そのためにはどうすべきかを考えて、大学や将来の道を選んでください。


夢ナビ編集部監修