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理学部 物理学科
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新素材を生み出す柔らかい物質、「ソフトマター」って何?
アメリカで政府を挙げて研究を推進
物質の構造や機能などを研究する物性物理学の分野では、いま、「ソフトマター」が注目を集めています。ソフトマターとは、ある特定の物質のことではなく、柔らかい性質を持つ物質の総称です。ゴム、プラスチックなどから、ゼリーやマヨネーズのような食べ物まで、私たちの身のまわりのあらゆるところに存在しています。ソフトマターの秘めている可能性の大きさから、アメリカでは政府を挙げて研究に取り組んでいるほどです。
弱い力で大きな応答
ソフトマターの物理的な面での大きな特徴は、「弱い力に対して大きな応答を示す」という点にあります。金属などは、指で押しても変形しづらいですが、ソフトマターを押すと、変形しやすく元に戻る力が働きます。ゼリーなどを想像するとわかるでしょう。変形しやすいということは、小さい力でコントロールできるということです。
そうした特性を生かして、ソフトマターを利用した多機能新規材料が次々と開発されています。例えば、液晶ディスプレイもそのひとつです。ソフトマターは構造が複雑であるため、製品開発においては、なぜそうした応答を見せるのかといった、原理的な部分がわからないまま、経験則で使用してきた面があります。複雑な構造と特性をシンプルにモデル化することで、その原理を解明しようという研究が進められています。
ソフトマターで、生命の秘密にも迫る?
実は、生物の体もほとんどがソフトマターでできていると言うことができます。つまり、ソフトマターを研究していくと、生体をモデリングすることも可能になるのです。例えば、モリアオガエルは、水辺の樹上に泡状の卵塊と呼ばれるものを作り、その中に産卵します。卵塊は、卵が孵化(ふか)するまで守り、ほどよい時期になると、下の水面にオタマジャクシを落とします。こうした不思議な特性を持つ物質を調べることは、新素材の開発だけでなく、生体機能の解明につながっていく可能性を秘めているのです。
身近にあっても謎だらけ! 「ソフトマター」の不思議を解明せよ!
「ソフトマター」って何?
ソフトマターとは、ゴム、プラスチックから、ゼリーやマヨネーズなど、柔らかい性質を持つ物質の総称です。私たちの身のまわりのあらゆるところに使用されているソフトマターは、機能性新規材料を開発するための有効な素材として、研究が進められています。液晶ディスプレイのような工業製品だけではなく、食品や医薬など、あらゆる分野に利用できる可能性を秘めた素材として、注目を集めています。
固体であって固体でない?
ソフトマターは、固体と液体の中間状態であり、固体や液体、気体の特徴を同時に持つこともあります。ゼラチンなどのゲル状物質は、熱を加えると流動性を持つゾル状になり、内部で対流現象が起こり始めます。発泡スチロールは、固体と気体の性質をあわせ持った素材です。ガラスも、ソフトマターの一種として知られています。常温では固いですが、液体のような構造と特性を秘めているのです。
温度変化で姿を変えるその実態を探る
ソフトマターの大きな特徴としては、温度や圧力など、環境の変化に影響を受けやすいという点が挙げられます。洗剤の材料として使われている界面活性剤は、水に入れると、自発的に集合体を形成することが知られています。自然とかたまりを作るのです。それらの集合体は、温度変化に敏感で、温度勾配という温度の「むら」を作ってやると、濃度勾配、つまり濃度の「むら」が誘発されます。温度と濃度が複雑に影響し合い、物質の動きも複雑になります。その複雑な変化を、いかにシンプルにモデル化していくかが、研究の課題となります。
こうした温度勾配は、実験室で人工的に作り出すのですが、実は日常生活においては、均一な気温であることのほうが珍しく、常に不均一な温度変化にさらされていると言えます。ソフトマターの温度勾配下での変化を研究することは、日常の空間において、ソフトマターがどういう性質を示すのか、ということの研究にもつながっているというわけです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
あなたは物理に対して、難しい学問だという印象を持っていませんか? でも実際には、「知りたい」という興味がとても大事な学問です。私たちの身のまわりには、不思議に思えることがたくさんあります。その、たくさんの不思議について「知りたい」と思える感性を大切にして、「誰かが知っているだろう」で済ませるのではなく、自分で興味を持って取り組んでください。難しいか簡単か、ではなくて、興味があるかないかで、勉強する方向、進むべき道を決めてほしいと思います。
夢ナビ編集部監修