Profile
理学部 数理科学科
キーワード
現代数学では、まとまりで考える研究で新展開が!
多項式から多項式環へ:多項式を集合で考える
現代数学では1つひとつのものを単独で扱うのではなく、まとめて「集合」の形で扱う研究スタイルが主流です。代数学に出てくる多項式も、1つひとつの式ではなく、ある条件を満たす多項式をひとまとめにして扱う考え方が定着しています。例えば、実数係数の2変数多項式全体といったようにです。そのような集合を「多項式環」と呼びます。環とは、簡単に言うと定義された集合内で、足し算と引き算、掛け算ができるという意味です。実数係数の2変数多項式なら、それらを加減乗しても、実数係数の2変数多項式になります。
今も未解決な「ヤコビアン予想」
多項式は従来「道具」として考えられており、多項式そのものより多項式で表された方程式や図形の方に興味を持たれることが多かったのですが、多項式環の研究は方程式や図形ではなく多項式そのものの本質を解明するというまったく別次元の話になります。この視点に立つことで、多項式という基本的な対象について奥深く難解な問題が浮かび上がってきます。
代表的なものに今も未解決な「ヤコビアン予想」があります。多項式環は変数変換が非常に複雑なのですが、ヤコビアン予想は微分の概念を使って変数変換を特徴づけることができると主張しています。
「永田予想」と多項式環
難しい変数変換の例としては、日本人数学者・永田雅宜による「永田予想」も解決まで長い年月を要しました。2004年に永田予想解決の論文が発表され、正しいものと認定されています。多くの数学者は永田の変数変換を詳しく調べようとしました。ところが、解いた数学者が行ったのはすべての多項式に共通する性質の研究で、それを基礎に新しい理論を作ったのです。個々の多項式の構造を見るのではなく、多項式全体に共通する普遍的な性質を解明することが永田予想の解決をもたらしました。
このように、いろいろな対象について本質を探り、理解を深めていくことで、現在でも数学は日々進歩し続けています。
変換で不変な「不変式」で知の根源を探る!
正多面体はなぜ美しい?
同じ種類の正多角形を面に持ち、すべての頂点が同じ構造である正多面体(正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類)は美しい形だと言われます。なぜ美しいと感じるかというと、「回転させてどの面を底面に置いても同じ形に見える」、つまり置き換えに対して不変だからです。数学的にはこれを「対称性」と呼びます。
このような性質を持つ「式」について調べるのが「不変式論」です。不変式の研究は、違う見かけを持つものたちに秘められた共通の本質を探っていく、人類の知の根源に迫るような意味合いがあります。
数学者ヒルベルトの第14問題
x3+y3という多項式はxとyを入れ換えても変わらない不変式です。x3+y3=(x+y)3-3(x+y)xyのように、この種の不変式は常にx+y、xyという2つの特別な不変式を用いて表すことができます。xとyの入れ換え以外にもさまざまな「変換」があります。与えられた変換に対し、x+y、xyのような役割を果たす「基本不変式系」を見つける研究は、不変式論の根本的なテーマの1つです。
数学者ヒルベルトは1900年の国際数学者会議で新世紀に向けて23の未解決問題を提示しました。その中の第14番目の問題は基本不変式系の有限性に関係する問題です。当時は不変式を具体的に構成しながら調べる方法が一般的でしたが、ヒルベルトは基本不変式系の有限性を一挙に示す画期的な方法を編み出しました。ヒルベルトの数学は今日の代数学にも大きな影響を与えています。
コンピュータでは解決しない問題
不変式をはじめとする多項式の研究では、実際に計算できるのでコンピュータが使われることもありますが、コンピュータではどうにもならない部分がほとんどです。計算によって何かを明らかにするということよりも、人間が考え、背後に潜む本質を探っていくことこそが重要なのです。そうした努力によって、次の時代につながる新たな数学が生み出されていきます。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
私自身の高校時代を振り返ると、さまざまなものに感動したり強く感銘を受けたりできた貴重な時期だったと思います。いろいろなことを新しく学び、自分自身で考えることで、それまで育ってきた中で暗黙のうちに正しいと信じていた価値観や世界観が絶対的なものではなく、もっと広く可能性に満ちた違った世界があるということを発見できるでしょう。
私もそうして「数学」という学問に出会い、研究者になりました。日々の学習や受験勉強で忙しいと思いますが目先のことにとらわれて小さくまとまらず、自分の可能性を見つけて行ってください。
夢ナビ編集部監修