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理学部 化学科
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電気を通すガラスがある!? その活用法や可能性とは

普通のガラスとどう違う?
窓や食器などに使われる一般のガラスは、ケイ素と酸素がテトラパックのような形で結合し頂点を共有して三次元のネットワークを作っているもので、電気を通さない絶縁体として知られています。しかし実は、電気を通すガラスというのもあるのです。バナジウムというレアメタルの一種が、一般のガラスと同様に酸素と結合しテトラパック状のネットワークを作り、茶色がかった光沢を持つガラスになります。周期表で23番の元素であるバナジウム(V)はV4+やV5+など何種類かの陽イオンになることができます。V4+は、Arと同じ電子配置を持つV5+より電子が1つ多いので、これが移動することで電気が流れます。
電気を通すガラスの活用法
ガラスの特徴として、原子と原子が規則的に配列していないアモルファス(非晶質)であることが挙げられます。これはバナジウムのガラスについて同様です。この特徴を生かして充補電が可能な二次電池(リチウムイオン電池)の電極として使うことが考えられています。バナジウムのガラスに鉄などほかの元素を加え、導電性などの物性を制御することで電極として応用できないか試行錯誤しています。
熱や光でさらに機能を高める
バナジウムのガラスは半導体と同じ程度の導電性がありますが、熱を加えると導電性が飛躍的に上がることがわかりました。具体的な数字で言えばガラスのアモルファス状態では10の-7乗から-5乗S(ジーメンス)/cmのところ、熱をかけると、10の-2乗から10の-1乗S(ジーメンス)/cmくらいまで上がるのです。熱をかける条件(温度、時間)で導電性を制御できれば、活用法が広がります。またガラスなので光に対する透過性もあり、光の刺激で電子の受け渡しができる材料にできないか、という研究も進められています。この材料の開発が進めば、いつか原子力発電に頼らず小さな家庭用電池で太陽光を蓄電して生活する、環境に優しい暮らしが実現するかもしれません。
鉄を使って環境を浄化する? 磁性体の活用法

マグネタイトという磁性体
鉄という材料はいろいろなところにさまざまな形で使われています。その中で、磁力を帯びる磁性体の酸化鉄「マグネタイト」を使って環境浄化をする研究が進められています。マグネタイトの化学式はFe3O4と教科書には記されていますが、実際はきれいな整数比ではなく、鉄の原子がいるべきところにいない場合があります。溶液の中でマグネタイトと金属鉄を混ぜると、金属鉄がその空いた場所に入り込み、鉄と酸素の比を3:4に保とうとします。この時に何らかの活性物質が出て、有害物質を分解するのではないかという仮説が出てきました。これが証明されるとマグネタイトを使った環境浄化の秘密がさらに明らかになります。
メスバウアー分光法で測定
例えば、毒性が非常に強いトリクロロエチレンという物質は、これまでは微生物に分解させるか活性炭に吸着させるなどしかなかったのですが、マグネタイトと金属鉄の混合によって分解できることがわかりました。金属鉄とマグネタイトを混ぜて有機物を分解した後に残るのはマグネタイトなので、磁石につけて回収することができます。汚れたところを浄化剤などを使うことなく、毒性物質を分解できるのです。
汚れを取る前と後でマグネタイトの構造にどう変化があるのかを調べるには、放射線(ガンマ線)で材料を壊すことなくレントゲンのように調べられる、メスバウアー分光法が使われます。こうした調査で分解に使われる物質が特定できれば、より確実な環境浄化への活用ができるでしょう。
境界領域の研究
磁性体で環境浄化というのは魅力的な活用法ですが、磁性体を作る研究者は環境の分析に詳しくなく、環境の分析技術を知っている人は材料の原理まで考えない傾向にあります。そこで両方の知識を持っている科学者が必要です。すべてを知らなくても、どういう概念や手法があるかを知っていないと、境界領域の研究は進まないので両方の引き出しを持った人材が求められているのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
私の研究では放射線を使って鉄をはじめとした材料を計測しています。「放射線」「放射能」というと危険に思われるかもしれませんが、法令に基づいた厳しい基準によって管理して、有効利用しています。みんなが危ないというから危ない、ではなく何が本当に危ないのか、どういう基準で何を計ってその数値が出ているのかを科学的に評価した上で判断し、危なくないように利用するのが科学者のものの見方です。放射線を使って、原子力発電に頼らない、環境に優しい装置の開発をすることだってできるのですから。
夢ナビ編集部監修