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理学部 化学科
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エアロゾルが大気汚染や気候変動を知るカギになる
微粒子が空気中に漂っていればなんでもエアロゾル
エアロゾルとは、微粒子が空気中に分散して漂っている状態のことをいいます。一般的には微粒子自体を指す語としても使われ、よく知られているPM2.5も、空気中に分散している直径2.5μm以下の微粒子という意味で、エアロゾルの一種です。なお、PM2.5というと人為的な大気汚染物質のイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではなく、植物などを発生源とする粒子も含まれます。また、単一の組成とは限らず、例えば自動車の排ガスには液体(油)と固体(すす)の交じったものも含まれます。なお、春先に中国大陸から飛来する黄砂や、吸い込むと健康被害を引き起こすアスベスト、スギ花粉などはおおむねPM2.5より大きいですが、やはりエアロゾルの一種です。
遠くまで運ばれやすく、環境や気候への影響は大
エアロゾル粒子として漂っていられる大きさはだいたい100μm(0.1mm)までです。その中でも、PM2.5のように1μm程度以下の粒子は力学的に安定で遠くまで飛ぶことができ、そのため、グローバルな問題になりがちです。ある地点で発生した汚染物質が、思わぬ広範囲で影響を与えることもあります。さらに重要なのが気候への影響で、エアロゾルは太陽光を散乱し、大気を冷やす働きをします。いわば二酸化炭素と逆の効果ですが、定量的にはまだよくわかっていません。
異なるものが交じっているから正体がつかみにくい
エアロゾルについて知ることは、大気中の窒素や酸素、二酸化炭素の割合を知るのと同様、大気の基本的な形態を知ることにつながります。研究の目標は、エアロゾルの発生源や、どのような反応でその状態になったのかを知り、大気汚染や気候変動のメカニズムを解明することです。しかしエアロゾルは、大きさや組成、形、さらには液体なのか固体なのか、さまざまに異なるものが交じり合っているため、計測が難しく、今はまだわからないことがたくさんあります。まずはできるだけ正確なデータの収集が急がれます。
信頼できるデータ収集のための、エアロゾルの測定方法と機器の開発
科学の大前提となるデータ、どう測る?
科学的にものを考えるにはデータが欠かせません。例えば大気を構成する窒素、酸素、二酸化炭素などの気体成分については、濃度や性質など多くのことがわかっていますが、これは長い測定分析の歴史があるからです。しかし大気中に漂う微粒子、エアロゾルについては、まだまだデータが足りません。理由は測定の難しさです。多くの物質が微粒子として交じりあっていて、何か一つを測定すればよいわけではないこと、常に大気が流れて時間と共に変化してしまうこと、微粒子の形や大きさで力学的な性質や人体への影響などにも違いがあり、これらの測定も必要なことなどが課題です。
微粒子の化学組成や大きさを連続して測りたい
エアロゾルの測定には、ろ紙で粒子を長時間集め、それを後で分析する方法がありますが、これでは測定地点での、測定した時間内に含まれる成分の平均値しかわかりません。また、空気中の微粒子の全体量(重さ)を測ることも可能ですが、この場合は成分の詳細はわかりません。そこで、現場で短時間のうちに粒子の主要な化学組成や大きさを測定できる機器が開発されました。こうしたデータを連続して集められれば、微粒子のでき方や濃度の変化をとらえることができ、粒子の生成、消滅過程などより詳しい理解に近づくはずですが、まだまだ改良途中です。
分析化学に欠かせない「ものさし」作りにも挑む
測定機器の開発に加えて、測定のための基準作りも重要です。例えば気体の濃度を測る場合、成分が一定した「標準ガス」をものさしとして使います。二酸化炭素の濃度の測定には、0.1ppm単位の精度が必要とされますが、ものさしとしての「標準ガス」が確立しているからこそ、二酸化炭素の測定データは信頼されるのです。エアロゾルの場合も、どの精度で測れば知りたいことがわかるのか、それを測るための「標準」をどう設定するかといったことから考えていく必要があるのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
私は大気環境中の化学物質の分析に関する研究を行っています。環境分析で大事なのは、ものを正確に測ることと、それを地道に長く続けることです。例えば、オゾンホールやCO2について多くのことがわかっていますが、これも先駆者の方々が何十年にもわたって地道な研究を続けてこられた積み重ねによるものです。そういう地道な研究を続けていく足掛かりになるのが、物理や化学などの基礎学問です。あなたもぜひ、目的を持って、その基礎となる勉強を頑張ってください。
夢ナビ編集部監修