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東京都立大学の「学び」を体験! ― 竹内 祐介

Profile
竹内 祐介 准教授
  【教員紹介】

経済経営学部 経済経営学科
経済学コース・経営学コース

キーワード
アジア, 経済, 歴史学

アジアの経済発展はなぜ実現したのか~アジア経済史を学ぶ~

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日本の歴史学の新しい分野

日本の歴史学は従来、「日本史」「世界史」「東洋史」が基本的なジャンルでした。東洋史の対象は主に中国史だったので、中国以外のアジアの国々が歴史、なかでも経済史の研究対象としてクローズアップされるようになったのは、近年のことです。
その背景には、第二次世界大戦後のアジア諸国の目覚ましい経済発展があります。その始まりが、1950年代後半からの日本の高度経済成長だったことは間違いありません。それまでは、「高度に発達した資本主義国家」は、ヨーロッパとアメリカだけだった世界に、アジアの小国である日本が名乗りをあげたのです。

経済成長がアジア諸国へ波及

先進国の仲間入りを果たした日本を追いかけるように、1970年代以降、韓国、香港、台湾、シンガポールが次々に経済成長を成し遂げました。これらの国々は「アジアニーズ(NIES;Newly Industrializing Economies、新興工業経済地域)」と呼ばれています。現在は、アジアニーズの各国に、タイやマレーシアが続いています。社会主義国家である中国も、1970年代後半に市場を開放し、急速な経済成長を遂げています。
南アメリカやアフリカなどと並んで途上国と言われたアジアが、なぜ今日のような経済成長ができたのかを探究することが、「アジア経済史」の課題の1つです。

日本統治の影響も

例えば、台湾や朝鮮半島、中国東北部(旧満州)を見てみると、かつて日本の統治下にあったことが、その後の経済発展にどんな影響を及ぼしたのか、ということも研究対象です。日本の技術者が現地で行ったインフラ整備などが、どのような役割を担ったのかについても、歴史学からの光が当てられています。
また、欧米と比べてアジア諸国の政府は、民間の企業活動への介入の度合いが強いことが特徴と言われています。それらの原因を探ることや、そうした特徴が未来にどう影響するのかについても、研究の成果が期待されているのです。

アジア経済史が語る本来の「アジア」の姿

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進んだ西洋、遅れたアジア?

世界の経済の中心は、19世紀以降、アメリカをはじめとする欧米諸国で、アジアや南米、アフリカは、「発展途上国」「新興国」などと呼ばれてきました。1950年代からの日本の高度経済成長や、1970年代以降顕著になった韓国、台湾、香港、シンガポールの経済発展、1970年代後半に市場開放をした中国の台頭によって、世界の経済分布は変わってきましたが、「進んだ欧米」「遅れたアジア」という見方は、今でも影響力を持っています。しかし、長い歴史を振り返ると、アジアが「遅れている」状態は、かなり例外的という見方もできるのです。

世界の富の4割がアジアで

国や地域の経済活動の規模を示す指標の1つにGDP(国内総生産)があります。統計に乏しい過去の時代のGDPの算出は、今日のように正確というわけにはいきません。それでも、さまざまな研究によって推計を重ねると、19世紀以前の世界では、GDPの実に4割がアジア地域、主に中国が占めていたと言われています。     ユーラシア大陸を横断する交易路「シルクロード」は、アジアで生産されていた絹織物にちなんで名付けられたもので、アジアの絹織物の交易は古代から盛んでした。また、15世紀半ばからの大航海時代には、ヨーロッパからアフリカ、アメリカ、アジアへの航路が確立されますが、この時の西洋人のアジアへの目線は、高品質の絹織物、陶磁器、お茶、香辛料などの交易にほかなりませんでした。西欧諸国は、アジアで生産される高級品を求めていたのです。

長いスパンで世界を見る

こうして見ると、アジアは長い期間、世界の生産・経済活動の中心であったということもできます。     直近数十年だけでなく、1000年、2000年と歴史をさかのぼり、長いスパンで世界を見ることは、現代をより深く理解する上で、とても大切です。また、経済活動の規模と動向に注目する「経済史」は、過去から現代だけでなく、現代から未来を展望できる学問分野でもあるのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

高校での歴史の勉強は、大学受験を見据えた暗記になりがちで、「歴史は苦手」と感じるかもしれませんが、大学で学ぶ歴史は暗記科目ではありません。歴史を学ぶことで、「現在」をより深く理解することができるようになるのです。
もともと、歴史に全く興味がない人はいないものです。親友や恋人がどんな人生を送ってきたのかを知りたいと思うのと同様に、自分が生きている国や世界の歴史を知りたいと思うのは自然なことです。あなた自身を知るためにも歴史を学ぶことは有効なので、ぜひその醍醐味を味わってください。


夢ナビ編集部監修