Profile
法学部 法学科
法律学コース
キーワード
日本の刑事裁判制度の大きな変革、被害者参加制度
刑事手続きの蚊帳の外に取り残された犯罪被害者
近代以前は、殺人が起こった場合、その遺族による「あだ討ち」が認められていました。しかし、それではいつまでも殺し合いが続きかねません。そのため、近代国家では、国が被害者の遺族からあだ討ちという手段を取り上げ、代わりに加害者の処罰をするようになりました。これが捜査や裁判といった刑事手続きの発端です。
この手続きの当事者は国と加害者(被告人)ということになり、その二者に関する決まりごとが多く定められました。その過程で、被告人等の権利が厚く保護される一方、被害者は蚊帳の外に取り残されるようになったのです。
被害者が裁判に参加できるように
これまで被害者の気持ちは検察官ができる限り代弁していましたが、法律で定められていたわけではないので、被害者側が知らないうちに加害者の処分が決まることも少なくありませんでした。こうした状況の中、被害者側が裁判に関わる権利を認めてほしいという声が広がり、2008年、被害者や遺族、または依頼を受けた弁護士が裁判に参加できる、「被害者参加制度」ができました。
参加できる事件の種類は限られ、手続きも煩雑ですが、ともかくそれまで傍聴席に座るしかなかった被害者や遺族が、裁判に直接関われるようになりました。また、この制度では検察官とは別に被害者側からの求刑が認められており、少なくとも法律上はどちらの求刑も同じ重みをもちます。これは日本の裁判史上、画期的な変化と言えます。
だれもが賛成する制度か
しかし、いい制度ができたと喜ぶ人ばかりではありません。犯罪のショックが大きすぎて、この制度を利用する勇気が出ない被害者もいます。さらに「いいと言われている制度を利用できない自分はだめな人間だ」と自分自身を追い詰めてしまうということもあります。見方を変えればプラス面だけでなくマイナス面もあるのです。
裁判をはじめ、制度や法律は絶えず変わり続けています。社会や国民の意識の変化に応じて、国家はより理想的な形を模索していると言えるでしょう。
裁判員裁判で注目される刑事裁判と刑事訴訟法とは
捜査から処罰まで規定されている刑事訴訟法
犯罪が起きると、犯人の逮捕を含めたその犯罪の捜査、起訴、裁判と手続きが進みます。そして裁判で判決が出た後、処分が確定します。この一連の手続きについて定めているのが「刑事訴訟法」です。歴史的にみると、捜査機関が無実の人を逮捕したり拷問をしたりと、国民をしいたげてきた事実もあります。それを防ぐためにも、刑事訴訟法には被疑者や被告人に過剰な負担をかけないよう、特に捜査については細かい規定が定められています。さらに、判決をどのように執行するか、それをだれが責任をもって見届けるかといったことも刑事訴訟法では決められています。
無罪が少ない刑事裁判
検察官は捜査により証拠を集め、ある人がその犯罪の犯人であることは間違いないと判断して起訴します。日本の場合、検察官は有罪判決が出るのが確実だと見込まれる場合でないと起訴しません。これは、有罪か無罪かはっきりしない人を起訴して結局無罪だった場合、その人に大きな負担をかけることになるからです。日本で無罪判決が少ないのはそのためです。それでもときどき無罪判決が出されます。その原因はいろいろ考えられますが、起訴をした検察官と判決を下す裁判官とでは、どの証拠がどれくらい信用できるかなど証拠に対する見方が違うことがあるという点もあげられます。
裁判員裁判によって変わる刑事裁判
刑事訴訟法は、以前ならほとんどの人が一生のうちに接することなく過ぎてしまうような法律でした。しかし、裁判員裁判が始まったことで、一般人も刑事訴訟法に接する可能性が出てきました。将来、もしもあなたが裁判員に選ばれたら、裁判官から必要な刑事訴訟法についての説明を受けるはずです。従来の裁判は、裁判官、検察官、弁護士といった法律の専門家によって運用されていました。これからはそこに裁判員という一般人が加わり、裁判官と一緒に被告人を裁くことになります。刑事裁判は、現在大きな変化の真っただ中にあるのです。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
今の若い人には、他人の痛みや苦しみ等内面に立ち入ろうとしない傾向があるようです。しかし、刑事裁判ではこうした人間の内面の弱い部分に直面せざるを得ません。法学部では法律の勉強だけでなく、世の中の出来事や人の心にも関心を持つことがとても大切です。法律や制度は社会の道具に過ぎません。それらは被害者も被告人も、そして一般国民皆が納得できる結論(判決)を導き出すために使われるべきものですし、一人の怒りや働きかけをきっかけとして変えることもできるものだということを知ってください。
夢ナビ編集部監修