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東京都立大学の「学び」を体験! ― 安井 マイケル

Profile
安井 マイケル 准教授
  【教員紹介】

人文社会学部 人文学科
英語圏文化論教室

キーワード
文学, 英語, 文学作品

文学は「まねること」から生まれる!?

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シェイクスピアやワーズワースもまねをした?

文学は、ゼロから生まれるものだと考えがちですが、実は過去の作品や周りの人を「まねること」から生まれた作品もあります。
英文学の父といわれるジェフリー・チョーサーは、当時主流だったラテン語やフランス語ではなく、世俗的な英語で初めて小説を書きました。彼はイタリア滞在中に、ボッカチオや詩人ペトラルカの作品を読み、自身の作品『Troilus and Criseyde』では、彼らの作品をまねたと思われる箇所が複数あります。ちなみに、この作品は、後にさらにシェイクスピアがまねて『トロイラスとクレシダ』という作品に仕上げ、現在も舞台で演じられています。また、ウィリアム・ワーズワースの『水仙(The Daffodils)』は、妹の日記から内容を引用したことがわかっています。

日本の文学作品にも「まね」はある

「まねること」は、なにも海外の作品に限ったことではありません。島崎藤村の『千曲川のスケッチ』は、手紙のようなスタイルで書かれていますが、これはイギリスの小説家、サミュエル・リチャードソンが1740年に書いたの『パミラ』にスタイルがそっくりです。藤村はフランスに行った時にリチャードソンの小説を読み、帰国後、長野で『千曲川のスケッチ』を書きました。イギリスに行った夏目漱石も、英文学の影響を受けていると思われる箇所が多数の作品に登場します。

「まねること」は悪いことではない

文学の世界では、時代によっては、まねることは絶対にいけないと批判された時期もありますが、実は他人の作品をまねたり、影響を受けたりすることは、必ずしも悪いことではないと言われています。シェイクスピアは、『ハムレット』や『ロミオとジュリエット』などの作品でも有名ですが、どちらも自分だけで生みだした作品とはいえません。それでも、彼の作品がいまだに上演され、人々から愛され、賞賛されているのは、彼だからこそ書けた英語の表現が秀逸だからでしょう。

欧米文学を学ぶことは「生きる力」にもなる

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文学を読むと自分を知ることができる

欧米文学に限らず、文学作品を読むことで、私たちは生きていくために必要な力をたくさん吸収することができます。まず、ひとつめは「自分を知ること」です。
詩でも小説でも、作品を読むと作者の考え方や心の中を知ることができます。作者の考え方を知ることで、自分の考え方との違いがわかります。「こんなふうに考えることもできるのか」という新しい発見や「私ならこう考える」という発想が生まれることは、多様性を知ることであり、視野を広げるという点でも、集団の中で円滑に活動する上でも非常に重要なスキルになるはずです。

文化、歴史、経済など、さまざまなことが学べる

また、自己理解のほかに「文化理解ができること」も重要なポイントです。
自分の国の文化をきちんと説明できる人は、残念ながら多くはありません。ただし、文学を学ぶとそれができるようになります。作品の内容で知識をつけることはもちろん、文学史を学び、作品が生まれた時代や社会背景を調べたり、出版時やその後の評価などを研究することで、国全体の風俗や歴史、経済、政治などを学ぶこともできます。こうした学びは、作品がうまれた国だけでなく、その対象を世界全体に広げることもできます。

もちろん、生きた英語を学ぶ上でも有効

もし、たくさんの外国の文学作品にふれるうちに興味を持つ作品に出会ったら、日本語訳ではなく、原書を読むことに挑戦すべきです。日本語訳のものは、手軽で理解しやすいですが、翻訳者の気持ちが入りすぎてしまったり、間違いや本来の意味がうまく表現できていない場合もあります。
原書を読むことは、英語を学ぶことにもなります。小説は基本的に正しい文章で書かれているので、英語を学びたい人にとって非常に有用な教材になるのです。わからない単語が出てきても、映画やTVなどと違って、自分で時間をかけて、辞書をひいて調べることができます。このように文学からは、たくさんのことを学ぶことができるのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

あなたがもし英語に興味があって、もっと話したい、理解できるようになりたいと思うなら、たくさんの言葉を覚えて、語彙を増やす必要があります。そのためには、英語で小説を読むことがおススメです。小説は言葉だけでなく、文化も学ぶことができます。これらを身につけることで、自分を深く知ることもできますし、ほかの人、特に外国人の考え方を身につけることができます。児童書や『ハリー・ポッター』シリーズなど、簡単なものや興味のあるものからでよいので、ぜひ読んでみてください。


夢ナビ編集部監修