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健康福祉学部 放射線学科
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古典的な物理現象を先端医療に利用~熱蛍光線量計とは~
鉱物は熱を受けて光る?
ほとんどの鉱物が持っている特性の一つに、「熱蛍光」と呼ばれる性質があります。熱蛍光というのは、放射線を受けた鉱物に熱を加えると、浴びた放射線の分だけ光を放出するという現象です。その特性を生かして作られた放射線測定器が昔から存在していますが、これを現在、最先端の医療に役立てようという研究が進んでいます。
高精度な放射線治療
がんなどの患部に対して放射線を当てることでがん細胞をやっつけるという放射線治療においては、なるべく健康な部位には放射線を当てず、患部に限定して当てることが重要とされます。一方向から2次元的に当てるのではなく、3次元的に集中して当てることで、ピンポイントでがん細胞をやっつけることが可能になります。それには、治療前に、放射線を当てる量と位置が適正かどうかを検証する必要があります。この放射線の3次元的な分布を計測するための技術開発が進められていますが、十分ではありません。
熱蛍光材料による人体と等価の「ファントム」
放射線治療計画の検証実験には、「ファントム」と呼ばれる、人体の代わりの模型が使われます。人体に似た組成の素材で作られたダミーです。臓器ごとに、例えば肺に似た組成を持つ肺等価ファントムなどが作られ、そこに線量計を埋め込んで検証実験が行われます。人体はほとんどが水分でできているので、水または、水に似た組成の固体ファントムが使われ、その中に線量計を入れて測定するという方法がとられていますが、セラミックスを主体にした最新の線量計を使い、板状のセラミックスを多数重ねて立体化することで、人体等価ファントムを作る研究が進んでいます。ファントム自体が線量計となるのです。
放射線を当てた後に板状に戻し、その発光現象をCCDカメラで撮像すると得られた熱蛍光の画像から線量の分布を取得することができます。このファントム自体が線量計として機能する新しい線量計は、がん治療の精度と安全性を向上させる新たなデバイスとして先端医療への応用が期待されています。
鉱物の「熱蛍光現象」の新たな可能性
熱蛍光研究の歴史
放射線を受けた鉱物に熱を加えると、浴びた放射線の分だけ光を放出する「熱蛍光」と呼ばれる現象があります。その現象そのものは、17世紀から知られていました。そして、その特性を生かして、20世紀半ばには、放射線の量を測定できる線量計が開発されました。熱蛍光を応用した線量計は現在も使用されていますが、材料や使用法に大きな発展は見られず、熱蛍光現象自体の研究は、あまり進んできませんでした。
熱蛍光による線量計の精度
放射線の線量計としては、熱蛍光を応用したもの以外にも、半導体検出器など、さまざまな原理のものが開発されてきました。その中で、熱蛍光線量計は、正確さや精度に欠ける線量計であるとされ、限定的な用途にしか使用されてきませんでした。そのため、新たな技術が生まれず、長らくこの分野が脚光を浴びることがなかったのです。しかし近年、熱蛍光でも精度の高い計測ができることがわかりました。
熱蛍光を観測するとき、従来は早く結果を知るために、早く温度を上昇させる方法がとられてきました。ところが、温度上昇を遅くすることによって、詳しい特性がわかるようになり、現象の再現性を飛躍的に向上させることができるようになったのです。
医療、そして汚染対策に
熱蛍光を活用する分野として、最も期待されているのは、がんなどに対する放射線治療ですが、それ以外にも、さまざまな用途に応用することができるでしょう。
例えば、福島の原発事故による影響を測定する際、樹木や地面の放射線量を測るのに、安価な測定手法として、熱蛍光物質を使った測定法が新たに開発されました。セラミックスを主体とした板状の熱蛍光線量計は、地面や樹木に刺して測定することができ、今まで正確に測定できなかった、樹木の内部などの汚染状況を生木のまま把握するとともに、汚染が表面から浸透したものか、根から吸い上げたものかなども判別することができます。こうした環境汚染対策のほかにも、社会のニーズに対応した新しい利用法が、今後も登場する可能性が期待されています。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
私は大学在学中でも、自分の好きなことや、やりたいことを見つけることができず、何を仕事にすればいいのかわかりませんでした。何も考えずに入った放射線の道でしたが、ほかの道に進む動機もないことから、この道へ進むとどんな世界が広がっているのか探検することにしたのです。目に見ることのできない放射線の世界を理解していく過程は興味深いものでした。いつしか、詳しくなり、好きになり、この道で生きていくこと以外に選択肢はなくなっていました。
好きなことは、新しい経験を積むことで生まれるのかもしれません。
夢ナビ編集部監修