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健康福祉学部 放射線学科
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触ることのできない場所の硬さを調べるには?
振動を利用して硬さを画像化
病気になった臓器は硬くなります。硬さを調べるのに手っ取り早いのは触ることです。乳がんは触診でも発見されています。しかし、患部の硬さは医師の経験則で判断され、具体的に数値化することはできません。また体内には簡単には触ることのできない場所も存在します。
そこで体に微弱な振動を与え、MRI(核磁気共鳴画像診断装置)で振動の波の伝わり方を測定して硬さを割り出すのが「MRエラストグラフィ」です。物体は「硬さが異なると波の伝わり方が変わる」ので、これを応用すれば硬さの数値化ができ、その値を画像として表示できるのです。
振動を伝えるのは難しい
しかし体内には骨や脂肪組織も存在し、またそれぞれの臓器にはそれを覆う被膜があるので、目的とする部位に正しく振動を与えるのは簡単ではありません。そうした背景からMRエラストグラフィは、主に肝臓の硬さを調べるために使われています。肝臓は大きな臓器なので振動を伝えやすく、また先天的に肝臓が硬化しやすい人への定期検査など、一定のニーズも見込めるからです。膵臓(すいぞう)なども硬さを調べられれば診断に役立つのですが、臓器の場所の深度やサイズの問題から実現されていません。
腰痛や肩こりの原因がわかるかも?
一方、骨をうまく利用することで硬さを調べられる部位もあります。例えば腰の背骨近くにある大腰(だいよう)筋は、脊柱(せきちゅう)起立筋と共に背骨を支える役割を果たしています。これらの筋肉のバランスが崩れることで原因不明の腰痛を引き起こしていると考えられています。本来なら体の奥深くに振動を伝えるのはとても難しいのですが、大腰筋は背骨にピッタリと密着しているため、振動の波を背骨から伝えることができるのです。また、肩の周りにある棘上(きょくじょう)筋といったインナーマッスルの硬さを調べるのにも、MRエラストグラフィが使えるため、肩こりやスポーツ障がいの治療への応用なども考えられています。
画像診断で、コンピュータは正しく病気を見つけられるのか?
MRIとCTの違いとは?
医療分野における画像診断技術は、目覚ましい進歩を遂げています。「MRI(磁気共鳴画像診断)」と「CT(コンピュータ断層撮影)」は似たような技術だと思われがちですが、原理が異なります。
MRIは被験者が動くと画像がブレてしまうため、数分間じっとしていなければなりません。内臓の動きを止めるのは難しいので、頭や腰、膝といった部位の撮影が得意です。またCTと比べて、得られる画像のコントラストが優れます。一方、CTは1秒未満でも撮影でき、MRIに比べて撮影時間を短くすることができます。また、MRIと同じく断面の撮影が可能なので小さな病変部や肋骨(ろっこつ)の陰に隠れてしまう場所も調べることができ、古くから行われているX線撮影より精度も高いと言えます。しかし低線量とはいえ放射線を使うため、MRIと違い被ばくするという問題もあります。
画像チェックをコンピュータがサポート
CTによる被験者1人当たりの画像量は数百枚にもなり、大量の画像をチェックする「読影」が医師の負担になっています。こうした背景を受けて進められているのが、コンピュータによる読影の補助です。
処理速度の向上により、ソフトウェアという形で実用化され、病変部と疑われる箇所のリストアップに利用されています。胸部は病変部の見分けが比較的容易なのに対して、腹部の腫瘍(しゅよう)の見分けは難しく、今後の課題となっています。
性能の向上だけでなく、性能の評価方法の確立も
現在、数社から診断補助のソフトウェアが販売されていますが、どの臓器や病気の診断を得意とするのか、またその精度や性能にはバラつきがあります。そこで医療用の人形(ファントム)内に模擬的な病巣を作り、これを正しく検出できるかといったテストが行われています。しかし現実の腫瘍は、モデル通りの形状になるとは限らず、周辺組織を巻き込んだ複雑な構造となることが多々あるので、ソフトウェアの性能の向上を図ると共に、それらの性能を正しく評価する方法も求められているのが現状です。
高校生・受験生の皆さんへのメッセージ
今はあらゆる技術が進み、疑問があれば機械がパッと答えを指し示してくれます。しかし、その答えは必ずしも正しいとは言えません。どういう理由でその結果に至ったかを理解していないと、判断を間違う可能性があります。決して「機械に使われる人間」には、ならないでください。また機械によるバックアップが進むと、個々の技術の差はなくなります。そのときに大事になるのは、人との向き合い方です。技術を偏重せず、人としての力も磨くことが、これからの時代には求められるでしょう。
夢ナビ編集部監修