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学生が動画クリエイターに! 宮本礼子准教授が作業療法学科の学びに「動画制作」を取り入れた理由とは

東京都立大学はTMU Vision 2030のトップビジョンにも掲げているとおり、「質の高い教育」や「協働して新たな価値を創造できる人材の育成」に力を入れています。このビジョンを体現した授業を行っているのが、健康福祉学部 作業療法学科の宮本礼子准教授です。宮本先生は授業の中に「動画制作」を導入。作業療法士の現場を想定した短編ドラマを、学生が企画からシナリオ、出演、編集まで一貫して制作します。知るだけでなく、演じること、人に伝えることで、高次脳機能障害で起こりうる事例や作業療法士の立場を学生たちに体感してもらい、理解につなげる取り組みです。本授業は2019年度の「ベスト・ティーチング・アワード」*1も受賞しました。今回、宮本先生と動画制作に取り組んだ学生にインタビューを実施。宮本先生に授業の進め方や動画制作を取り入れた背景について、学生たちに制作を通じて得た知見についてお聞きしました。

*1 教育の質の改善に貢献した優れた取り組みを表彰する制度

作業療法士の業界課題まで理解してほしい。授業に動画制作を取り入れた理由

――宮本先生のご専門と、担当されている授業について教えてください。
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健康福祉学部 作業療法学科 宮本 礼子 准教授

私の専門は「高次脳機能障害」で、交通事故や病気などで脳に障がいを負った方のセラピーについて研究し、学生たちに教えています。

2年前にベスト・ティーチング・アワードをいただいたのは、3年次前期に行われる「認知機能作業療法学演習」という必修科目。2年次後期の授業で得た知識を基に、実践を重視しながら「認知機能作業療法」について学ぶ授業です。

――授業の中では、どのような動画を制作するのですか?

高次脳機能障害に関する10〜15分ほどの短編ドラマです。現場の声や事例を基に、セラピー現場で起こりうるシチュエーションを複数考案し、学生に提示します。学生は6人のグループをつくり、そのシチュエーションの中から自分たちが撮影したいテーマを選択します。その後、誰に向けて何を発信するのかを決め、A4用紙1枚分のコンセプトシートを作成。シナリオ作成や役者、撮影、編集などを役割分担しながら、授業時間の内外で動画を制作します。

動画が完成したら授業の中でプレゼンテーションを行います。学生同士で障がいに対する気付きや表現方法への意見をフィードバックし合い、さらに学びを深めるきっかけとしています。

――なぜ、動画制作を取り入れたのですか?

動画をつくる工程の中で、学科の教育目標を達成しつつ、作業療法士の業界課題を学生たちにも理解してもらえると考えたからです。

作業療法学科では、「作業」*2を通じてクライエント*3と社会をつなぐ支援力を身に付けるとともに、長期的な見通しを持って世の中の動きにも敏感に対応できる能力を養うことを大切にしています。

また、学生には業界の中でリーダーシップをとれる人材になってもらいたいからこそ、作業療法士という職業の認知度の低さや、高次機能障害の支援の難しさ、そもそも多くの作業療法士が仕事との関わり方に悩みながら模索している状況があることなど、専門知識だけでなく業界課題にも広く目を向けてほしいと考えています。

これらを学生が自ら学び取ることができるようにする授業方法をいろいろと考えた結果、若者にとってSNS等で身近な存在である「動画」を教材にしようと思い至ったのです。

*2 作業療法における「作業」とは、すべての人が日々行う行為であり、その人にとって目的や価値を持つ生活行為全般を指す。日常生活行為、家事、仕事、趣味(スポーツや創作活動など)、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、それを行うのに必要な心身の活動が含まれる。作業療法士はその人の健康や幸福を促進するために、その人に最適な作業に焦点を当てて支援を行う仕事。
*3依頼者、相談者の意。一般企業などで使われる「クライアント」とは元となる英単語(client)は共通だが、「クライエント」は特に社会福祉関連業界で使用される。また、「患者」とも明確に区別される

――「業界課題の理解」という部分も、授業の大切なテーマなのですね。

そうですね。先ほどお話した動画制作の流れの中で、社会の動きを見る目と作業療法士の立場への理解が深まるはずです。また、シナリオをつくるにあたっては、私が提示した事例を基に「具体的にどのような困難がありうるのか」「クライエントが大切にする作業と生活とのつながりは何か」といった周辺知識や状況まで、調べて考えることになります。

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感染対策のため、インタビュー取材はオンラインにて実施された

このような一連の過程で学生たちが主体的に授業に関わり、必要な知識を身に付けたり、自分自身が作業療法士となった際にどう仕事と関わるのかを考えたりするきっかけとなればと思っています。

また、近年は本学科から一般企業に就職する学生も増えてきたため、社会人として普遍的に活かせる企画力や表現力、共創力を磨けるような構成にすることも強く意識しましたね。

――制作した動画は、学外の人も閲覧できるのでしょうか?

個人情報の関係で、YouTubeなどオンライン上で公開することはないのですが、オープンキャンパスや大学祭で優秀作品が上演されることはあります。実際、本学科の4年生が実行委員長を務める荒川キャンパスでの大学祭(青鳩祭)で、学科のブースを出して優秀作品の上演会を実施しました。この企画を学生さんの方から提案してくれたことは、嬉しかったです。

「便利なスマホも、障害のある人には使いにくいこともある」。授業の中で、現代ならではの課題解決に挑む

――学生への教育効果はいかがですか?

学生たち一人ひとりの学びに対する主体性が、より一層出てきたように感じます。動画制作を取り入れてから、私のところに質問に来る学生が増えましたし、授業時間外の学習も増えているようです。

また、実習に臨む姿勢も変わりました。動画制作の中で、調べるだけではどうしても理解しきれない症状があることに気付く場合もあります。だからこそ、より理解を深めるために、実習施設で能動的にクライエントに関わろうとする学生が増えたように思います。

――作業療法学科には、ほかにも実践的な授業はあるのでしょうか。

学年が上がるにつれて実践重視の授業が増えますね。模擬的に作業療法士の仕事を体験して理解を深める授業や、リクライニングベッドなど生活を支援する機器の使い方と改善について考える授業などがあります。学生は、実践の多い授業ほど面白いと感じているようで、積極的に学びに向かう姿が見受けられます。

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学内に用意されている「生活支援実習室」。クライエントの生活環境を擬似的に再現し、支援を実践的に学ぶことができる。学生による動画撮影にも使用された
――今回の成果を基に、今後取り組みたいことはありますか?

やりたいことは二つあります。一つが2年次後期の関連授業で、高次脳機能障害を子どもから大人まで幅広い世代の方に知ってもらうための取り組みを行うこと。昨年はその一環として学生たちに「カルタ」をつくってもらいました。学生が楽しみながら学びつつ、社会に向けた広報アイデアを発想する機会を授業の中で作っていけたらと思います。

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二つ目が、最近注目を集めている「アクセシビリティ」の問題解決に取り組むこと。たとえば私たちが普段スムーズに使っているスマートフォンなどのデジタル機器も、高次脳機能障害のある人にとっては使いにくさを感じることがあります。また物理的な操作性だけでなく情報への近づきやすさ(情報アクセシビリティ)といった面も重要です。そういった現代的な課題を、動画制作の中にも取り入れられたらと思っています。

【学生インタビュー】授業で得られた知識と自信。実習や就職、地域活動に活かしていきたい

――ここからは、実際に宮本先生の指導を受けた経験を持つ2名の学生さんにお話を伺います。宮本先生の授業について、率直な感想や面白みを感じた部分を教えていただけますか?

私は作業療法学科の4年生ですが、昨年受けた授業の内容を今でも鮮明に覚えているほど、面白くて印象に残る授業でした。授業に能動的に関わっている感覚があり、座学で学ぶときよりも知識を頭に入れやすかったです。

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佐野 朋枝さん

私は佐野さんの1年後輩で、夏休み前に授業を受け終えたばかりです。宮本先生の授業はグループ作業も多く、一人では得られなかった知識を学べました。

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布施 薫さん
――授業で最も印象に残っていることは何ですか?

制作した動画を発表するコンペです。どのグループもクオリティーの高い動画をつくっていました。動画を通じて多様な事例を知ることで、高次脳機能障害にも様々なケースがあると改めて理解することができました。

私も佐野さんと同じく、コンペが最も印象に残っています。障がいへの理解が深まっただけでなく、ほかの学生のフィードバックで自分たちの頑張りを評価してもらえて、自信につながりました。

――お二人の今後の目標について教えてください。

都立大の作業療法学科は、専門知識だけでなく、業界の現状や最新知識、作業療法士の新分野での活躍など、様々なことを幅広く学べるのが特徴だと思います。だからこそ、この学科には新しい分野に挑戦してみたいと考える学生も多い。私自身も今後、医療業界に就職して学びを活かすだけでなく、地域コミュニティーに関わって作業療法士の認知度向上などに貢献していきたいです。

私は後期から実習が始まります。宮本先生の授業で得た知識と自信を実習に活かしていきたいです。授業の中で考えたクライエントの様子や気持ち、作業と実生活とのつながりなども改めて思い出しながら、実習に活かしていけたらと思います。

――最後に、都立大の受験を検討している高校生に向けてメッセージをお願いいたします。

都立大は総合大学で、学部学科の垣根を超えた学びも歓迎してくれる大学です。先生との距離も近く、各学部にはあたたかさがあると思います。加えて、地域との連携や行政とのつながりもあって、基礎から最新知識まで幅広く学ぶことが可能です。好奇心旺盛にいろいろなことを学びたい方には、おすすめの大学だと思います。

また、キャンパスには多様な学生がいます。専門を深めるだけでなく、サークル等でいろいろな学生と知り合えるのも魅力の一つ。ぜひ様々な大学を検討して、最終的に都立大を選んでもらえたらうれしいなと思います。

都立大は自分たちの思考の過程を重視するような、実践的で面白い授業が多数開講されています。作業療法学科でも、先生方が独自の教育方法を常に考えながら授業を展開してくださっているように感じます。学びが身になり、成長している実感を得られる大学です。作業療法士に興味のある方は、ぜひ一度都立大を検討してみてください!