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人間健康科学研究科-放射線治療中の患者に与えられた放射線の量を生体内でリアルタイムに確認する

生体内線量測定のゴールドスタンダードとなる可能性を秘めた計測器を開発

放射線治療の精度を評価する

近年放射線治療は1mm単位の高精度でがん組織だけを狙って治療の計画を立案することができるようになりました。このような高精度を要求される放射線治療を安全に実施するには、照射の精度を高いレベルに保つための品質保証(Quality Assurance: QA)及び品質管理(Quality Control: QC)が重要です。適切にQA/QCがなされることで、がん組織に対して決められた放射線量を正確に照射することができ、周囲の正常組織の無駄な被ばくを回避することができます。

現在、患者に与えられる放射線量の管理は、QA/QCの結果から予測する方法が主であり、この方法では実際に患者に与えられた放射線量は不明です。そこで、放射線治療に際して正しく放射線量が与えられているかを直接的に確認するために、我々の研究チームは生体内線量測定という手法と専用の放射線計測器の開発を進めています。この手法は患者の体内に放射線計測器を挿入し治療中の放射線量を直接測定するもので、実際に患者に与えられた放射線量を直接的に確認できる唯一の手段となります。

従来から用いられてきたX線治療と比較し、よりがん組織に放射線量を集中することのできる重粒子線治療は高い照射精度が求められるため、生体内線量測定の良い適応と考えられます。我々の研究チームは、重粒子線治療患者に対して生体内線量測定を実施し計画された放射線量と同等の値を検出し、世界で初めて炭素線治療中の生体内線量測定を成功させることが出来ました。

測定器の標準化に向けて

現在、放射線治療手技は多様化しています。放射線の種類で分類するだけでもX線、陽子線、重粒子線等が利用されています。また、照射の技術も向上の一途を辿っており、多角度からの放射線照射や超高線量率照射等の技術も必要に応じて利用されています。

多様化した放射線治療手技の全てに対応できる生体内線量計はなく、開発が急がれています。この課題に対して我々の研究チームは、開発した放射線計測器を利用して多様化した放射線治療手技に対応することができる生体内線量測定を実現するために研究を進めています。

現在は、X線及び陽子線治療に対応するために、それぞれの放射線種に対する放射線計測器の応答特性を得るための実験を進めており、良好な結果が得られてきています。

以上のように、我々が開発を進めている放射線計測器は現在のところ標準的な測定法が確立されていない生体内線量測定においてゴールドスタンダードとなる可能性を秘めている計測器といえます。継続的な研究開発を進めることで、適正な放射線治療の推進の一助となると考えています。

線量測定技術向上の取組み
Profile

人間健康科学研究科 放射線科学域
松本真之介准教授
大分県立看護科学大学大学院博士後期課程看護学研究科修了。博士(健康科学)。