小さく分ければ別のものを一つの世界観で捉える
古代ギリシャ時代の哲学には、今でいう物理学や生物学が含まれます。人間についてはもちろん、水や空気、天空の星々、木や金属といった物質、炎や腐敗などの現象、そして人間以外の多種多様な生物など、現代であれば異なる学問で扱う対象を、全て身の回りの不思議を解明して「世界を理解する」哲学の枠組みとして一つの世界観を形成し、共通の言葉で語りました。私はそこに「混合」という概念を見い出します。古代ギリシャ人は、あらゆる物質についても、火・空気・水・土という4つの要素が混合して構成されていると考えていたのです。
もちろん、その説は長い歴史の中で改められますが、ルネサンス期にふたたび脚光を浴び、古代ギリシャの世界観が文学や美術作品として描かれました。一方で多様な異なるものを混合させ秩序立てた世界観は、現代のグローバル社会のあり方に見ることもできます。小さく分ければ別のものですが、それらを混合させて一つのものとする古代ギリシャ哲学の考え方から、現代社会のあり方や、捉え方を学ぶことができるのではないでしょうか。
人間の本質は多様性を求めている
私が今、強い関心を寄せているのは、古代ギリシャ人の生物に対する考え方であり、特に当時の「雑種」の捉え方と、その概念の今日に至る変遷を研究しています。例えば、人間の上半身と馬の下半身を併せて持っていたり、翼を羽ばたかせる鳥の上半身と強靱な4本脚で大地に立つライオンの下半身を持っていたりする生物は、現代の考え方ではファンタジーの異形です。しかしあれらの造形は、人間の知力に馬の脚力を備えたい、大地を駆け大空を舞う力を身に付けたいという願いの表れであり、人間の理想の姿を表現しています。現代は「ピュア」に価値を置く傾向がありますが、「雑種」にこそ生命の強さが宿ると感じ取ることもできます。「ピュア」を求める選民主義による植民地支配が終わった後、当時の支配者と被支配者の文化が混合した、その点で雑種の秩序といえるポストコロニアルが注目されることやグローバル化の進展も、人間の本質が多様性を求めているからかもしれません。
Profile
人文科学研究科文化関係論専攻
GROISARD Jocelyn(グロワザールジョスラン)准教授
フランス国立高等研究院で学び、2009年来日。2010年から日本で教鞭を執り、2016年から現職。