2022年12月8日~10日に行われた第49回有機典型元素化学討論会において、都市環境科学研究科環境応用化学域 博士前期課程 川口楓さんが「第49回有機典型元素化学討論会 最優秀講演賞」を受賞しました。
<討論主題>
有機典型元素化合物の合成、反応、構造および物性など
<発表題目>
「ベンゼン-1,4-ジボロン酸の遅延発光特性における励起状態ダイナミクス」
<発表概要>
室温りん光※1材料は、有機EL※2ディスプレイや蓄光材料など、表示材料として多方面への応用が期待されています。近年、ホウ素元素を含む有機分子が優れた室温りん光性を示すことが見出されましたが、その発光メカニズムはよくわかっていません。今後の材料設計に活かすためには、その光励起ダイナミクスの理解が不可欠です。本研究では、発光現象に関する実験データの解析に機械学習と理論計算をうまく組み合わせたところ、励起状態において特異的な構造緩和がホウ素置換によってもたらされ、効率的な項間交差※3過程を伴うりん光発光が発現されることを突きとめました。本成果は、ホウ素を用いた室温りん光材料の開発を切り開く先駆的な研究発表として評価されました。
※1 りん光:励起三重項状態から電磁波を放出して元の基底状態に戻る際に起こる発光現象をいう。蛍光に比べると燐光は一般的に寿命が長くなる。
※2 有機EL:有機エレクトロルミネッセンスをさす。発光素子光素子は発光層が有機化合物から成る発光ダイオード から構成され、次世代ディスプレイとして期待される。
※3 項間交差:励起一重項状態にある電子のスピン状態が反転して励起三重項状態へ無放射的に遷移する過程をいう。
受賞者のコメント
都市環境科学研究科 環境応用科化学域 博士前期課程1年生 川口楓さん:
今回の成果は、自分の有機化学や光化学への純粋な興味を原動力にして、粘り強く徹底的にサイエンスを追求したことで得られたものです。この研究を通して、化学の楽しさや材料化学の可能性を実感しただけでなく、自立して研究を遂行する能力が身に付きました。また、今回の受賞の裏には、東京都立大学の充実した研究環境や、久保先生をはじめとする先生方の手厚いサポートがありました。我々の研究が学会に認められ、名誉ある賞をいただけたことを大変うれしく思っております。
指導教員のコメント
都市環境学部 環境応用化学科 久保由治 教授:
私たちの生活は様々な物質・材料に支えられています。それらを構成する基本単位である元素は金属に代表される遷移元素と炭素や窒素などの典型元素に分類され、後者は有機物の主要成分です。本討論会は有機化学を基盤とする多くの研究者や学生が集い、多彩な典型元素がもたらす反応性、物性、機能性について議論をおこなう国内主要学会のひとつです。今回の成果は、ホウ素のもつ潜在能力を引き出せたばかりでなく、暗闇でも視認できる新しい表示材料の設計指針を提供することができました。最優秀講演賞に本学博士前期課程1年生による口頭発表が選ばれたインパクトは大きく、本学の教育研究レベルの高さを示唆する受賞と考えます。