この度、理学部物理学科の江副 祐一郎准教授の研究課題「X線で挑む地球磁気圏のグローバル撮像」が、日本学術振興会の令和3年度科学研究費助成事業(特別推進研究)に採択されました。「特別推進研究」は、新しい学術を切り拓く真に優れた独自性のある研究であって、格段に優れた研究成果を期待するものです。なお、具体的な応募総数及び採択件数等については、後日、日本学術振興会HPにて公開されます。
■研究詳細
本研究課題「X線で挑む地球磁気圏のグローバル撮像」は、太陽風と地球磁場で形成される地球磁気圏の大局的構造の可視化を実現し、動的に変化する磁気圏システム、すなわち宇宙における地球環境を明らかにすることを目的とするものです。
地球磁気圏は、高度1000 km から数万 km に渡って広がり、太陽フレアやコロナ質量放出といった擾乱現象に伴い、オーロラ爆発に代表されるエネルギー解放や、衝撃波面や磁気圏界面の移動といった大局的トポロジーの変化が生じるダイナミックな系です。図に示すように、地球磁気圏の理解は地球惑星科学の最重要テーマの一つであることは言うまでもありませんが、宇宙プラズマ現象や系外惑星環境の理解から天文学、さらに地磁気や大気擾乱による地上や衛星への障害予測としての宇宙天気にも結びつき、まさに宇宙科学・人類生活圏の基盤をなす天体です。
地球磁気圏は人工衛星のその場観測や地上観測によってその理解が進んできましたが、1点の詳細なデータあるいは地上に投影したデータであり,平均的な描像は得られるものの、大局的な構造とその変化の把握は困難でした。そこで本研究では、図に示すように、近年、天文観測中に地球周辺から発見されてきた太陽風電荷交換X線という新しい手段を用いて、磁気圏の大局構造を可視化します。このX線放射は太陽風プラズマに含まれる多価イオンが地球の超高層大気である外圏から電子を奪い発光するものです。磁気圏の衝撃波通過後の太陽風プラズマは磁気圏界面との遷移領域と呼ばれる領域で密度を増すことから、磁気圏の可視化ができると考えています。
本研究では、磁気圏の大局構造を可視化するために地球から離れた月付近の高度からの俯瞰的な観測を可能にする大推力の推進系を備えた新しい50 kg 級の超小型衛星と、超小型衛星の限られたリソース内で高感度を実現する独自の超小型X線撮像分光装置を開発します。そして大型ロケットへの相乗りで打ち上げて、科学的成果を創出することを狙います。太陽活動はまもなく極大に達すると考えられますので、強いX線発光が期待できます。本衛星計画は科学目的から GEO-X (GEOspace X-ray imager)と呼びます。本研究はJAXA 宇宙科学研究所、東京大学、関東学院大学、名古屋大学、北海道大学ほかと共同で進めるものです。
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