Profile
首都大学東京 都市教養学部 都市教養学科 理工学系 数理科学コース(現 東京都立大学 理学部 数理科学科)2017年度卒業
首都大学東京大学院 理学研究科 数理科学専攻 博士前期課程(現 東京都立大学大学院 理学研究科 数理科学専攻 博士前期課程) 2019年度修了
株式会社日立製作所 研究開発グループ サービスシステムイノベーションセンタ デジタルエコノミー研究部
都市教養学部 都市教養学科 理工学系 数理科学コース卒業、理学研究科 数理科学専攻 博士前期課程修了。数学が得意だったこと、学部説明会で大学の雰囲気に感銘を受けたことから都立大への進学を決意。教職課程も履修し、アルバイトをしながら勉強に励む忙しい学生生活を送る。学部と大学院では徳永浩雄教授の研究室に所属。同研究室で研究の面白さに目覚めたことをきっかけに、研究職での就職を志し、日立製作所に就職。2020年より自己主権型アイデンティティの実現やディープフェイクの脅威に対する対策技術の研究開発に従事している。
数学と教職の勉強にとことん打ち込んだ学生生活
――子どものころはどのようなことに興味を持っていましたか?
理科の授業や科学に関する話題に興味を持っていました。理系分野への関心が芽生えたのは、両親がよく博物館や科学館に連れて行ってくれたことが大きな要因です。特に、お台場にある日本科学未来館には何度も遊びに行きました。宇宙やロボット、人体、地球環境、最新テクノロジーまで、様々な切り口で構成された展示内容から先端研究の一端に触れることができ、とても楽しかったのをよく覚えています。
また、小学生のころから、教師という職業にも憧れを抱いていました。将来は学校の先生になるという夢も描きながら、小中学校、高校と学生生活を送っていましたね。
――都立大を志した理由を教えてください。
大学進学を考えた際、真っ先に思い浮かんだのが自分の得意科目を活かした学部選択でした。私は、理系科目の中でも特に数学が好きで、得意でした。そこで、大学では数学を専門的に学ぼうと、数学が学べる国公立・私立大学を探し始めました。
都立大を選んだのは、学部説明会で大学の雰囲気に好印象を抱いたからです。高校2年生のときに参加した数理科学科の説明会では、たまたま悪天候で参加者が少なく、私が二人の教授を独り占めする形で説明会が行われました。そこで先生方がとても熱心にカリキュラムや授業、大学生活に関して教えてくださり、先生との距離の近さや高い熱量の指導に惹かれ、都立大の受験を決めました。
――大学と大学院では、どのような日々を過ごしましたか?
教職課程の授業も履修していたため、勉強とアルバイトで忙しい日々を送っていました。特に1、2年次は1限から6限まで授業がびっしり詰まっている日も珍しくなく、毎日様々な授業を受けながら学びを深めていました。
私は高校まで「自分は数学が得意だ」と思っていましたが、授業内容は専門性が高くとても難しいものばかりでした。ただ、学科には学生2名に対して一人の先生がつく担任制度があり、学びの過程を手厚くサポートしてもらうことができました。私も担任の先生に読んでおくべき書籍を教えてもらうなどして、学科での授業や課題に食らい付いていきました。
また、研究室における活動でも少人数制を採用しており、のびのびと学ぶことができます。私が所属していた徳永浩雄先生の研究室は、同学年の学生が私一人だけだったこともあり、研究の細かな部分まで指導していただくことができました。先生とは、今でも時折連絡を取っています。卒業後も先生や同窓生との縁が続き、良い刺激をもらうことができるのは、都立大ならではの良さだと思います。
都立大での学びが導いてくれた研究職の道
――現在はどのような仕事をしているのですか?
日立製作所の研究開発グループ デジタルエコノミー研究部で、社会課題を解決するための二つの基礎研究に携わっています。
一つ目が「デジタルアイデンティティ・ブロックチェーン研究」です。高度にデジタル化が進んだ現代社会において、個人情報が知らぬ間に企業などに取得されて利用されていたり、悪意のある第三者によって流出させられてしまったりすることが大きな問題となっています。そうした課題に対し、「個人情報を各個人が主権者となってコントロールする」という思想の下、偽装や改ざんの難しいブロックチェーン技術や、日立の独自技術である生体認証を組み合わせながら管理する方法を研究しています。
二つ目が「ディープフェイク研究」です。ディープフェイクとは、ディープラーニング(※)を用いて二つの画像や動画、音声の一部を結合させ、基の素材とは異なる動画を作成する技術のことで、それらが現在、SNSやWeb広告で著名人のなりすましなどに悪用されて問題になっています。この技術は、オンラインの口座開設における本人確認にも悪用される危険性があり、その危険度や対策について検証を進めるべく、研究に取り組んでいます。
- ディープラーニング:深層学習。人工知能技術の中の機械学習技術の一つ。人間の手を使わず、コンピューターが自動的に大量のデータの中から希望する特徴を発見する技術を指す。
――今まさに顕在化してきている社会問題に研究で挑戦しているのですね。
はい。社会で求められている研究に携わることができるのは、大きなやりがいです。特に先日は、ディープフェイク研究において「オンライン口座の開設時に他人の運転免許証と合成された顔写真を使うことで、なりすましが実行できる」という実験結果を学会で発表したところ、それが全国紙の一面や地方紙に取り上げられ、大きな反響をいただくことができました。
その反響を受け、私の現在の研究は、日々の暮らしと地続きであることを実感しました。まだ実用化前の研究ではありますが、より安全・安心に暮らせる社会の実現に向けて、さらに研究を頑張っていこうとモチベーションが高まりました。
――どのような軸で就職活動を行い、現在の仕事に就いたのですか。
学生生活を通じて研究することの面白さを知り、私はいつしか教員ではなく研究職に就きたいと考えるようになっていました。そこで就職活動では、研究職に絞って企業説明会や選考に参加。幅広い分野で社会と密接に関わる研究ができる日立製作所に魅力を感じ、入社に至りました。
――都立大での学びは現在の仕事に活かされていますか?
数学を専門的に学んだことにより、何をどのように調べれば結果にたどり着くことができるのかをロジカルに考える力が身に付きました。こうした論理的思考力は、現在の仕事においても、ゴールから逆算して研究の筋道を立てていく部分で大いに役立っていると感じています。
――最後に、川名さんにとって都立大とは?
都立大は、現在の私の礎をつくってくれた場所です。既存知識を吸収するだけでなく、自ら問いを立てて考えることの醍醐味を知ることができたからこそ、研究職という道に進むことができました。それに、先生の手厚い指導の下で、単位を取ることを目的とした勉強ではなく「研究」のやり方をしっかりと身に付けられたからこそ、今こうして様々な成果を出せているのだと思います。研究室や授業でお世話になった先生方には、本当に感謝しています。都立大での日々は、私の一生の宝物です。
- 登場する人物の在籍年次や所属、活動内容等は、取材時(2024年)のものです。