Profile

首都大学東京 健康福祉学部 看護学科(現 東京都立大学 健康福祉学部 看護学科) 2018年度卒業
人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 看護科学域 博士前期課程 2022年度修了
人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 看護科学域 博士後期課程 在籍中
健康福祉学部 看護学科卒業、人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 看護科学域 博士後期課程在籍中。中学時代の入院経験をきっかけに看護学科を志し、都立大 健康福祉学部に進学。看護学の勉強とサークル活動を両立した学生生活を送る。都立病院の救急救命センターで3年間経験を積んだのち、現場で感じた疑問を解き明かすべく、都立大大学院 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 看護科学域 博士前期課程に進学。現在は博士後期課程に進み、西村ユミ教授のもとで、医療チームと患者との関わりを研究している。
入院時の体験が都立大で看護を学ぶきっかけに
――大学入学前はどのようなことに興味を持っていましたか?
看護師の仕事に興味を持つようになったきっかけは、中学1年生のときに病気で3ヶ月ほど入院し、患者として看護師さんの存在の大きさを実感したからです。入院中、看護師さんには身の回りのお世話から精神的なケアまでしていただき、感謝してもしきれないほどでした。
特に腎臓組織を採取する「腎生検」の検査をしたときのことは、今でも忘れません。検査の恐怖を感じていた私のもとに、看護師さんがそっと寄り添い、手を握りながら「大丈夫だよ」と声をかけてくださったのです。私は不安だった心が落ち着き、無事に検査を乗り切ることができました。
当時、高校を卒業したら働くつもりでしたが、働くならあの時の看護師さんのようになりたいと思い、看護師を目指すことに決めました。
――都立大を志した理由は?
進学にあたっては、看護が学べる国公立大学を目指していました。その中でも都立大を選んだのは、緑豊かで広々としたキャンパスと、自分のやりたいことを突き詰めている学生の雰囲気に大きな魅力を感じたからです。
また、高校生の時、大学祭で観たダンスサークルのパフォーマンスは、受験勉強を乗り越える大きな原動力になりました。普段は授業や課外活動で忙しいであろう先輩方が、大勢の観客を前にダンスを披露する姿にカッコよさを感じ、私もそのような充実した学生生活を送りたいと憧れました。
――学部生時代は、どのような日々を過ごしましたか?
看護の勉強とダンスサークルの活動を両立した達成感のある4年間でした。看護学科の実習も、自分のキャリアを築く上でとても大きな経験になりました。いろいろな診療科を経験する中で、急性期医療に携わりたいという明確な目標ができ、3年次の実習では、就職先の都立病院とのご縁をいただくこともできました。実習で患者さんと良い関係性を築くことができたことは、本当に嬉しかったです。その喜びは、私が今「看護のあり方」を研究するきっかけの一つになっています。
――大学を卒業後、都立病院でどのような仕事をしていたのですか?
急性期一般病棟の看護師として、命の危機に瀕している患者さんから、回復に向かっていく患者さんのケアに携わっていました。現場の仕事は本当に忙しく、都立病院で働いていた3年間は、一切立ち止まることなく前に進んでいた日々でした。
「現場で感じたジレンマと向き合いたい」。看護師を辞め、大学院へ進学
――大学院への進学を決めたのは、なぜですか?
患者さんとの関わり方を見つめ直したいと感じたからです。救急救命科の患者さんは、意識がなく、言葉を交わせないことも多いですが、私たち看護師からの声かけに手が若干動くなど、人によってはわずかな反応を見せてくれることも少なくありません。そうした小さな変化を見逃さずに、なるべく声をかけながら温かなケアをしたいと思いつつも、実際の現場は目が回るほど忙しくて、患者さんに必要最低限のケアしかできないことに大きなジレンマを抱えていました。
重篤な状態から回復した場合、身体機能の一部が失われ、それまでとは180度異なる生活を強いられる患者さんもいます。そういった方々に対して、当時の私はどのように接するべきか分かりませんでした。
現場で生じた問いを考えていたとき、学部時代に授業を受けたことがある西村ユミ先生とお話する機会がありました。自分のモヤモヤを伝えたところ「大学院で研究してみたら」と背中を押していただき、改めて西村先生の著書『語りかける身体-看護ケアの現象学』を読んでみると、先生が私と近い関心を持って研究していることがわかり、西村先生に師事したいという気持ちから都立大の大学院への進学を決めました。
――大学院ではどのような研究をしているのですか?
博士前期課程では、現場での経験をもとに「急性期病棟において、意思疎通が困難な患者に関わる看護師の実践の成り立ち」というテーマで研究を進めました。意識障害があって身の回りのことを自分で行なえないような患者さんに対して、看護師はどう関わっているのかを急性期病棟の観察と、看護師へのインタビューをもとに、現象学の理論を使って分析しました。
博士後期課程に進んだ現在は、前期の研究をベースとしながら少し視点を変え、看護師や医師、理学療法士などの医療チームで行われる患者さんへの実践の成り立ちを研究しようと考えています。
――研究のやりがいについて教えてください。
現場で何気なく行われている言動の意味や意義を研究によって明らかにし、より良い医療・看護の実践につなげていける点に大きなやりがいを感じています。
看護や医療を提供する際、患者さんに対してとても大切な関わりが行われていたとしても、現場の当事者としてはそれが重要な取り組みだとは気付いていないことも多いです。研究者が現場で行われていることを改めて言語化し、理論的に裏付けしながら、論文としてまとめていくことで、現場の看護師の振り返りや気付きの提供につながります。現場の発展に貢献できることが看護学の醍醐味だと思います。
――最後に、武田さんにとって都立大とは?
都立大は、自分の可能性をいかようにも広げてくれる場所だと思います。私自身、大学進学を目指していたわけでもなければ、まさか自分が博士後期課程まで進学して研究の道を志すとは想像すらしていませんでした。それができたのは、都立大の多彩な学びの機会と、多様な学生支援の制度があったからこそだと思います。東京都民は入学金が半額になるといった経済支援制度は、進学を具体的に検討する際に大きな後押しの材料となりました。
私はこれから、都立大の制度を利用して海外留学に行く予定です。留学先で看護について学びを深めつつ、現地で様々な物事に触れることで、より広い視野で今後の進路を考えようと思っています。未来の私がどのような選択をしているのか、とても楽しみです。
- 登場する人物の在籍年次や所属、活動内容等は、取材時(2023年)のものです。