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令和05年度 取組状況 | |
所属 | 理学部 生命科学科 |
職 位 | 准教授 |
氏 名 | 野澤 昌文 |
取組状況 | |
教 育 | 進化生物学
Evolutionary Biology/進化生物学各論 進化生物学概論 生物学基礎演習2 進化生物学実験(進化遺伝) 生物学実験2 Special Lecture in Evolutionary Biology 生命科学特別演習 I(コンピュータ活用 基礎編 大学院) 進化遺伝学特論(大学院) |
研 究 | 1)ネオX染色体における即時遺伝子量補償の検証
遺伝子量補償とはX染色体の数が雌雄で異なることによる遺伝子発現量の不均衡を解消するメカニズムである.ショウジョウバエではオスのX染色体上の遺伝子発現が2倍になる. Y染色体の遺伝子消失とX染色体の遺伝子量補償の関係性を調べるために,多くの機能遺伝子を持つミランダショウジョウバエのネオY染色体上の遺伝子を重イオンビームで破壊し,ネオX染色体の相同遺伝子の発現量が上昇するか検証した.本年度は照射量を50 Gyに増やして実験した.照射オスのF1オス30個体のゲノムを読んだところ,6個体9ヵ所で100 kbp~13 Mbpの欠失が見つかった.しかし,ネオX染色体のホモログの発現量は有意に上昇しておらず,遺伝子量補償は即時的でない可能性が示唆された. 2)ヒゲジロショウジョウバエにおけるY染色体消失過程の解明 Y染色体は通常退化しているが,オス化や生殖に関わる重要な遺伝子が存在するため通常は消失しない.しかし,当研究室ではヒゲジロショウジョウバエがY染色体を持つオスと持たないオスの多型状態にあることを発見した.そこで,ヒゲジロのY染色体が消失し得た進化過程の解明を目指している.これまでにY染色体の配列約10.6 Mbpを同定した.また,約10.6 Mbpの配列上に25個の発現遺伝子を予測した.これらの相同遺伝子はキイロでは常染色体に存在していた一方で,妊性関連遺伝子はヒゲジロのX染色体に存在していた.これらの結果は,ヒゲジロとキイロのY染色体が相同ではなく,ヒゲジロが一度Y染色体を消失し別のY染色体を再獲得したことを示唆する.また,昨年度に西表島と石垣島にて採集した本種約190系統の核型を調べたところY染色体を持つオスが多数派を占めることが明らかになった. 3)ショウジョウバエにおけるY染色体の必要性と毒性の検証 Y染色体のヘテロクロマチン状態が加齢と共に弱まると,Y染色体に蓄積した転位因子が発現し個体に悪影響を及ぼすとするY染色体毒性仮説が提唱されている.そこで,Y染色体の有無が種内で多型状態にあるヒゲジロショウジョウバエとノハラカオジロショウジョウバエのY有オスとY無オスを表現型や分子レベルで比較し,Y染色体の必要性と毒性の解明を目指している.本年度はY染色体の有無以外の遺伝的背景を揃えた系統の樹立を目指した.交配実験とジェノタイピングを行い,ヒゲジロについては,Y染色体を持たないがその他の染色体はY有系統由来の系統,Y染色体を持つがその他の染色体はY無系統由来の系統を樹立した.一方,ノハラでは前者の系統は樹立できたが,後者の系統は未だに樹立できていない.Y染色体とY無系統の第2染色体の間に不和合があると考えている.また,キイロのY染色体上にある妊性関連遺伝子は,ノハラでもヒゲジロと同様にX染色体に存在していた. 4)アサヒナショウジョウバエにおけるB染色体の機能および性染色体との関連 メンデルの遺伝の法則に従わないB染色体とよばれる染色体が存在する.本研究では,B染色体を持つアサヒナショウジョウバエにおけるB染色体の機能,およびB染色体とY染色体の間の進化的関連を解明すべく研究を進めている.これまでに候補B染色体配列約9.1 Mbpを同定した.同様に候補Y染色体配列約3.0 Mbpを同定した.さらに,RNA-seqによりトランスクリプトームを決定し,B染色体上に27発現遺伝子を同定した.そのうち3遺伝子はY染色体上の遺伝子と相同であった.また,候補B染色体配列と候補Y染色体配列はランダム配列より有意に相同性が高かった.B染色体とY染色体は共通の進化的起源を持つ可能性が示唆された. 5)モトウスグロショウジョウバエにおける性比異常現象の解明 性比異常現象(Sex ratio distortion,SRD)とは,通常1:1で維持されている雌雄の比が一方の性に偏る現象のことである.昨年度までに,モトウスグロショウジョウバエにおいて性比が雌に偏るSRDが存在すること,その原因因子(Distorter) がX染色体上に存在すること,不完全なSRDの抑制因子が存在する可能性を明らかにした.本年度は性比異常系統(SR系統)と正常系統(ST系統)の全ゲノム配列を解読し, Distorterの候補遺伝子を探索した.その結果,Gcna遺伝子がSR系統でのみ重複していた.さらに,Gcnaのタンパク質ドメインのうち,SprT様ドメインが特に重複しており,この遺伝子がSRDの原因因子であることが示唆された.また、機能面でもGcnaがDistorter足り得ると考えられた. |
社会貢献 | 日本遺伝学会 評議員
日本進化学会 代議員 埼玉県立熊谷高校 SSH運営指導委員会副委員長 科学技術・学術政策研究所 科学技術専門家ネットワーク・専門調査員 Frontiers in Evolutionary and Population Genetics, Associate Editor iDarwin, Associate Editor |