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東京都立大学の「学び」を体験! ― 高橋 日出男

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高橋 日出男
  【教員紹介】

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キーワード
ヒートアイランド, 気象, 都市計画

「ヒートアイランド現象」とは何か

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ヒートアイランド現象とは?

環境問題の報道などで「ヒートアイランド現象」という言葉を聞いたことがあるでしょう。これは都市部の気温が周囲に比べて高く、気温分布を表す等温線が同心円の島のようになっている、まさに「熱の島」という状態を表す言葉です。実際に、東京近郊にある約200か所の小学校で、百葉箱に温度計を置いて観測したところ、きれいにヒートアイランド現象が浮かび上がってきました。

ヒートアイランド現象が起こるわけ

ヒートアイランド現象が都市部で起こる原因として、以下のことが考えられています。
まず1つめは、人間活動に伴う熱です。都市部には人口が密集し、多くのエネルギーを使うため、そのぶん排出される熱も多く、それが気温の上昇につながります。
2つめに、都市には高層の建築物が多数存在し、それによって地表面の熱が上空に逃げる放射冷却現象が起こりにくくなることが挙げられます。
3つめは、地面の舗装です。舗装された地面では、水分の蒸発が抑制されるので、気化熱として奪われる熱が小さくなり、結果として地面近くの気温が上昇することになります。
このようにして起こったヒートアイランド現象により、夏に熱中症が多発するようになりました。また冬の寒さで淘汰されるはずの、蚊やゴキブリなどの害虫、そして低緯度地域から入ってきた外来種の生物なども生き延びることができ、生態系への影響などが問題視されています。

都市計画への応用が望まれる

ヒートアイランド現象を緩和するためには、都市全体のつくりそのものを見直すことが必要です。
具体的な解決方法としては、都市の中に公園や緑地といった「クールアイランド」をつくることです。自然の地面を取り戻すことがもちろん望ましいのですが、屋上緑化などの形でも対策が進められています。
また、ドイツにおいては「風の道」といって、海や高原など周辺から来る新鮮な空気が通りやすいような建築物の配置が採用されています。
都市気候の研究による問題提起が都市計画へ応用され、住みやすい環境が実現することが望まれています。

集中豪雨は都市域で起きやすい!?

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都市を襲う集中豪雨

ニュースなどで都市域が強い雷雨に見舞われた様子を見たことはありませんか? 集中豪雨がなぜ都市域で多く発生するのかについては、気候学・気象学や地理学の分野でさまざまな研究が行われています。ちなみに、報道などでよく使われる「ゲリラ豪雨」という言葉は、都市の集中豪雨を科学的にとらえられないかのように誤解を与える表現なので、学問的にはあまり使いません。

集中豪雨の主な原因

都市の集中豪雨の原因として今のところ有力なのは以下の3つです。
1つめはヒートアイランド現象によるという説です。都市域の気温が周囲に比べて高くなるヒートアイランド現象で大気が不安定になり、上昇気流が発生しやすくなって、雷雲の発生につながることが考えられます。
2つめは、都市にある建築物の影響が挙げられます。都市には建築物が密集しているため、海などから吹いてくる風がぶつかって弱まり、上昇気流が発生して雲ができ、雨を降らせるという考え方です。
3つめは大気汚染で、都市域の大気に広がる汚染物質が、水蒸気が凝結するときの核となり、雨雲ができやすくなるという説です。

気候・気象のデータ分析には地理的発想が大事

豪雨の謎を解くには、一箇所で観察しているだけではわからないことが多く、多数の観測データを分析することで、初めて都市域で強い雨が多いという事実が浮かび上がります。
狭い範囲に発生する雷雨については、気象庁のアメダスだけでは詳しい特徴がよくわからないため、自治体などの協力により、細かいデータを得て分布を地図に描き込んでいき、できた地図を気温や風、地形や建築物の高さなどを示す別の地図と重ねることで、さまざまな分析が可能になるのです。
地図は気候・気象の分析に大きな役割を果たします。地理学は人間と自然のかかわりを探求する学問であり、現象の空間分布を明らかにする学問でもあります。地理は社会科で文系の学問、気候学や気象学は理科系の学問と考えるかもしれませんが、気候・気象の研究において地理的な発想や視点が大事なのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

大学で行う学問の本質は、高校までとは違う専門的な研究であり、知識を詰め込むのではなく新しい知識を生み出すことにあります。いろいろな知的好奇心を持って大学に来て、専門的な知識を身につけると同時に、新しい発見をしてもらいたいと思います。気候や気象現象の研究に関しては、まだ解明されていない未知の部分がたくさんあります。さまざまな調査や解析によって、一つひとつベールを取り除いていき、面白い現象を見つけていけるような熱意のある学生が来てくれることを願っています。


夢ナビ編集部監修