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東京都立大学の「学び」を体験! ― 宮台 眞司

Profile
宮台 真司
  【教員紹介】

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キーワード
コミュニケーション, インターネット, 感情

「見えないコミュニティ」が、優秀な人材を育てる

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誰もが政治に参加できるのはよくない?

人々はインターネットでのコミュニケーションに依存しているおかげで表面的には孤独を感じず、特別な嗜好を持った人も仲間を見出せるようになりましたが、逆に相容れない人間との分断化が進みました。誰もが参加できることは民主主義の理想に思えますが、分断化された人々が政治への参加権を持っても、排外主義にとらわれたり、攻撃的なニュアンスを含んだメッセージにあおられます。さらに理性的な議論がないがしろにされ、「声が大きい人の勝ち」の状況に陥りやすくなります。

「声が大きい人」の暴走を止めるには

自分の意見を強引に押し通そうとする「声が大きい人」に主導権を持たせないためには、正しく運営された「ソーシャル・キャピタル(人々の「信頼」「規範」「ネットワーク」といった協調行動を活発にする社会組織)」により意見をまとめることです。2000年代半ばから行われている「熟議(協働をめざした対話)」などがよい例で、匿名化を排除し、偏見を取り払った状況下では独りよがりな意見はいさめられ、同性婚や差別など極端化しやすい問題はマイルド化します。一方、集団内の立場のある人が理解を示すことで、意見が通らなかった人の不満も解消できます。

インターネットから隠れたコミュニティを作る

以前は地域や企業がソーシャル・キャピタルの役割を果たしていました。しかし地域は空洞化し、グローバル化にさらされた企業もソーシャル・キャピタルを維持するコストを割けなくなった今、代わりとなる環境を作るには、濃密な人間関係を、あえてインターネットから見えなくする必要があります。シェアハウスも住人をインターネットで募集すると問題が起こりやすい一方、紹介制にすれば円滑な人間関係を保てます。インターネットから見えない形で作られたコミュニティは、腹を割って話せるようなクオリティの高い関係性を構築できます。またそうした環境なしには政治や経済の主力を担う人材をコミュニケーションを通じて養成するのが難しい時代になっているのです。

コンピュータと恋愛する時代がやってくる?

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他人と関わらない生活の弊害

1人でもある程度の社会生活が送れるようになり、人間のコミュニケーション能力は年々衰えています。その一因がインターネットの普及です。他人と関わらないと、誰かの悲しみを自分の悲しみにしたり、誰かの喜びを自分の喜びにしたりする「共感性」が失われ、ひいては感情の劣化につながります。共感性を育むには恋愛が一番なのですが、そもそものコミュニケーション能力が落ちているため、そこまでたどり着けない人が増えているのです。

異性より同性を選ぶ理由

運よくリアルの友人や恋人に恵まれたとしても、お互いがある種のキャラクターを演じることで、雰囲気を壊さないことに注力します。
興味深いデータがあります。「異性と同性、どちらの人間関係を優先するか?」という質問に対し、男女共に同性を優先するようになりました。2010年以前では考えられなかった回答ですが、「同性といた方が楽しい」というポジティブな理由ではなく、周囲の評価を恐れてのことです。それだと、親しい関係になっても会話の内容は乏しく、相手がその人でなければならない理由がなくなります。チャットボット(人工無脳、会話ボット)と会話するのと大差ないのです。

コンピュータの方が人間らしくなる

2045年にはコンピュータが人間を凌駕(りょうが)すると言われています。計算能力は既に人間を上回り、ビッグデータを活用することで言語処理能力もかなりのレベルに達しました。この先、人間の感情は劣化していくので、コンピュータに豊かな感情を学習させれば、コンピュータの方がむしろ人間的になるでしょう。人工知能との恋を描いた映画『her/世界でひとつの彼女』が話題になりましたが、それが現実になるのも時間の問題です。
これまでコンピュータは、映画『ターミネーター』で描かれたように感情を持たない非人間的なものとして描かれてきましたが、私たちを待ち受けているのは「人間的なコンピュータ」が「非人間的な人間」を支配する未来かもしれません。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

「感情の劣化」は日本に限ったことではなく、今や世界的な問題となっています。すべてはインターネットがもたらした、「自分が見たいものだけ見る」というメンタリティにあります。ですから「感情の劣化」をキーワードにすれば、宗教や政治、教育、犯罪など、さまざまなことが説明できるのです。
日本の国内でさえ知らないことはたくさんあります。いつまでも「見たくないもの」から目を背けていると、自分の中に眠っている可能性に気づかないまま、生涯を送ってしまうかもしれません。


夢ナビ編集部監修