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エリカ混声合唱団の60年と「そのあと」

60年間の重みを感じる演奏会

 エリカ混声合唱団の演奏会は「首都大学東京校歌」で幕を開けるのが恒例である。本学は今年4月に名称変更を控えており、この校歌が同団の演奏会のオープニングを飾るのもこれが最後になるだろう。続く「愛唱歌アラカルト」では、同団がこれまで初演し歌い継がれてきた曲を中心に現役生が緻密なアンサンブルを披露した。
 OBOG合同ステージでは、東京都立大学、首都大学東京の卒業生はもちろん、2000年代の初頭まで合同で活動していた実践女子大学の卒業生もステージに上がり、現役生と合わせて総勢100名越えの演奏を披露した。
 ところで、エリカ混声合唱団の60年は決して平坦なものではなかった。1959年に都立大学グリークラブから派生した同団は、64年に「独立」を果たすと精力的に活動を展開してきた。一時は団員が100名近くなった時期もあり、他大学との連盟にも加入していたほどであった。しかしながら団員数は減少に転じ、2002年にはとうとう団員が0になってしまった。翌年には文化部連合から除名勧告も受け、そのまま消滅してしまうものとも思われた。
 しかし、この消滅の危機を救ったのがエリカの卒業生であった。ダメもとで季節外れの新歓を実施し、「奇跡的」に団員を確保、消滅を免れたのである。以来十余年、新生エリカ混声合唱団は往時の活力を取り戻し、今では50名以上の団員を抱える大規模な合唱団へと成長を遂げたのである。
 このような山あり谷ありの歴史の当事者たる卒業生と現役生の合同演奏は、同団の60年間がそのまま音楽に昇華されたかのような圧巻の演奏であった。
 そして演奏会の目玉となる最終ステージでは、今回の演奏会に向けて書き下ろされた新曲である混声合唱組曲「そのあと」を演奏した。この曲は元々男声合唱曲として作曲されたのだが、実はその初演は本学グリークラブの60周年記念演奏会で行われた。そのような経歴を持つ曲の混声合唱版を、同じ大学の混声合唱団が、同じく60周年を記念する演奏会で初演したのである。同じ曲の別バージョンが同じ大学の合唱団によって初演されるのは合唱の世界でも珍しいことだという。
 新曲を世に出すことのプレッシャーはとても大きかったと団員の一人は語っていたが、詩のメッセージと音楽表現が深くまで咀嚼されており、その濃淡や明暗が聴く者にも伝わる素晴らしい演奏であった。練習期間はとても短かったそうだが、それでもぐっとくる演奏を届けてくれる技量には脱帽である。これも60年分の熱量の蓄積であろうか。
 「60周年記念演奏会」はエリカの過去と現在が詰まった象徴的な演奏会であったと同時に、今後にも大いに期待させてくれるものであった。これから世に出ていく新曲は、「東京都立大学エリカ混声合唱団」として新たに歩みを進めていく同団の姿に重なるものとなるだろう。悲しみや苦しみの後にも「そのあと」がある。エリカ混声合唱団の「そのあと」が、鮮やかなエリカの花のように活発なものとなることを、そしてこれからも素晴らしい演奏を聞かせてくれることを、60年の節目に願ってやまない。


【学生広報チーム 門口 樹輝(人文・社会系4年)】

作曲家・上田真樹さんへインタビュー

 演奏に先立って、60周年記念演奏会にて初演された混声合唱組曲「そのあと」およびOBOG合同ステージで演奏された混声合唱組曲『野辺に咲く花』の作曲者である上田真樹さんにお話を伺うことができた。

―エリカ混声合唱団から委嘱のお話があったときはどのように感じましたか?

 委嘱の話はとても嬉しかったです。男声合唱曲として書いた曲を混声合唱にすることはなかなか無いことで、それも同じ学校の合唱団の、同じ還暦というタイミングにできることはとても特別なことだと感じています。そんな経験をするのは私自身初めてで、今後も無いと思っています。「そのあと」が首都大のための曲になると感じています。

―混声合唱組曲「そのあと」はどのような作品ですか?

 谷川俊太郎さんの詩には無駄が無いというか、皮肉の裏返しに深いメッセージが込められていて、「刺さる言葉」が随所に散りばめられています。それを敢えてあっけらかんと歌うことで、そのメッセージがより刺さるものになってくれたらという思いがあります。単なるプロテストではない「訴え」を、詩と音楽で訴えるものです。
 これまでは曲に政治的なメッセージは込めたくないというスタンスで作曲してきたのですが、昨今の世界各地の情勢を考えるとそうも言っていられなくなりました。今回の「そのあと」は、詩のメッセージを訴えることを意識して作曲した初めての曲かもしれません。こんな今だからこそ読まれてほしい詩、歌われてほしい曲です。

―混声合唱組曲としての「そのあと」を書くにあたってどのようなことを考えましたか?

 男声合唱曲を混声合唱曲にただ広げるだけにしたくないという思いがありました。男声合唱として書いた曲の混声合唱版を作曲したことは以前にもあったのですが、そのときは完全な編曲で、男声がかなり活躍する曲を書きました。ですが今回は、一度曲の骨組みにまで立ち返って、オリジナルの混声合唱曲として作曲することを意識しました。なので、男声だけではできなかったメロディが入っていたりと、混声合唱だからこその曲になっています。
 去年(2018年)の演奏会にも招待して頂きましたが、そのときに演奏を聴いて感じたエリカ混声合唱団のイメージも意識して書きました。どのような演奏をしてくれる合唱団なのかわかっていたのは大きかったかもしれません。

―上田さんの持つ「エリカ混声合唱団のイメージ」とはどのようなものですか?

 去年(2018年)の演奏会で初めて顔合わせしましたが、以前グリークラブに関わったこともあってか、はじめましての感じが全然しませんでした。
 演奏はとても品のあるサウンドで、インテリジェンスな感じがします。作品の掘り下げ方が凄いです。「そのあと」は詩が深い作品なので、その曲作りが演奏に出るのではないでしょうか。全体の音楽を考えてくれていて、聴きたいところを聴かせてくれる「バランスの良い演奏」ができる合唱団だと思います。皆で曲を作ってくれていることがわかります。

―最後に、エリカ混声合唱団に向けて一言お願いします。

 エリカの皆さんには、これまで築いてきた曲作りの路線を是非続けてほしいです。世の中には数多くの合唱団がありますが、「知り合いが出ているから演奏会に行こう」ではなくて、「演奏を聴きたいから演奏会に行こう」と思わせてくれる合唱団はなかなか無いものです。エリカ混声合唱団は「音楽を聴かせられる」合唱団ですから、そのような合唱団に新曲を初演してもらえることは私にとっても、音楽にとっても非常に幸福なことです。

―上田さん、貴重なお話をありがとうございました。


【聞き手:学生広報チーム 門口 樹輝(人文・社会系4年)】

演奏会を終えての団員の声

 60周年記念演奏会を大成功で終えたエリカ混声合唱団。年明けに2019年度エリカ混声合唱団団長の吉峯知歩さん(生命科学3年)と2019年度学生指揮者の中永早映さん(生命科学3年)と次期団長の雲林院瑠也さん(法学部2年)の3名にお話を伺った。

―内容がとても濃く聞きごたえのある演奏会でしたが、大変だったことはありますか?

中永 練習のスケジュールが遅れて指揮者として本当に大変でした。

吉峯 私はOBOGの方たちとの連絡係としての仕事が多くて、意見が強いOBOGと団員との間で板挟みになる感じでした。そこの兼ね合いが大変だったかなと思います。

雲林院
 OBOGの人たちとの練習ということで、日程調整の都合から練習日が増えたことが大変だったと思います。あとは演奏会までのスケジュールが大丈夫か、上手くいくかなど焦ってもいたと思います。

―今回の演奏会は上田真樹さんの新作初演が目玉でした。普段プロの作曲家の方と直に接する機会はほとんど無いと思いますが、練習時など実際に会ってみてどうでしたか?

雲林院 やはり曲を作った方だと話も説得力ありますし、話を聞いていて皆意識も変わりますね。

吉峯 上田先生が来た時に思ったのは、私たちと表現の仕方が少し違ったことですね。例えば、「ここは溜息のようにハミングやって」とか、「ここは温度が変わるから」とかですね。これからも上田先生の曲を歌うにあたって、上田先生ワールドを知れたってことは嬉しいですね。

―改めて定期演奏会を振り返ってどんな気持ちですか?

中永 ポジティブな気持ちとしては、演奏会終わったとか、準備が報われたとかがあります。お客さんも沢山来てくれましたしほっとしました。今まで緊張してきたことや、上田先生や男声版を初演した指揮者の先生を呼んだことや、指揮をたくさん学びに行ったことなどが報われたのだなと思っています。
一方ネガティブな気持ちとしては、私が完璧主義ということもあって、練習時間にも限りがあった中ではあるのですが、もっとこうできたらという悔しさがあります。実際私はもう引退になるので、そこは少し悲しいです。

吉峯 私はもう前に気持ちがいっていますね。委嘱初演した「そのあと」って歌は、大切な人が死んだ後も人生はあるっていう内容なんですけど、私の感覚はそれに近い感じで、大切な演奏会が終わった後も私達の生活は続いていて、あまり演奏会の感想が浮かばないです。ステージは楽しかったけれど、仕事で走り回っている内に気づいたら終わっていたという感じです。
 あと、この演奏会は今のメンバーでなかったらできなかったと思います。適材適所でできたことが良かったと思っています。だから、上手くいかなかった点も含めて、次の代にどう引き継いでいくかに意識がいっています。今回OBOGさんとの繋がりもできたので、また会いたいですし、また歌いたいと思っています。

―60周年を終えて、61年目からのエリカ混声合唱団に対して思うことはありますか?
吉峯 エリカは義務で来なきゃいけないとか、必死に活動しないといけない圧はないけれど、みんな来たら頑張ってしまうような、そういう雰囲気があると思っています。私はこの適度に仲が良くて、高めあえる雰囲気が好きでエリカに入団しているので、それはそのままが良いと思っています。ただ、運営の負担がどこかに集中しないよう、もっと効率化できるところは試行錯誤して欲しいですね。

中永
 私は、エリカのやり方はその時にそこいる人たちのもので、私が口出しすることではないと思います。ただ、私は練習を仕切る側として、練習に向けて準備や振り返りをする中で、自分だけでやっている感覚に陥ることが多々あったので、これからは学指揮がそうならないでほしいと思います。学指揮は団員に助けを求めるし、団員も学指揮にちゃんと考えを言える関係であってほしいです。

雲林院
 この団は初心者も多くて門戸が広いのが良いと思っているので、そこは続けたいと思います。「良い合唱団」には色々な尺度があると思うんですけど、長く続いていることも一つあると思っています。良いからこそ長く続いてきたと思うんです。エリカは長い歴史がある合唱団ですから、僕は次期団長として団を大きく変えたいということはないです。ただ何かあればすぐ意見できる団にしておきたいと思います。

 
 ステージ上での堂々とした姿勢に対して、インタビュー中はとても和やかな雰囲気だった。これらが彼らの言う、エリカ混声合唱団の雰囲気なのかもしれない。今回はそれに触れることのできる貴重な機会となった。今後もエリカ混声合唱団から目が離せない。


【聞き手:学生広報チーム 山岸 玲司(観光科学科1年)】 

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