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ミニ講義 ― 東京都立大学の「学び」を体験!
石井 良和 教授

石井 良和 教授
H30再編後の所属
健康福祉学部 作業療法学科
石井 良和 教授 【教員紹介】
キーワード:
治療, 作業療法, リハビリテーション

患者さんの「想い」を引き出す、作業療法士のツールとは?

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患者さんの意志に合わせた作業を提供する

作業療法では、患者さんの「やってみたい」という気持ちを引き出す動機づけがとても重要です。そのため、治療を始める前に患者さんの自己評価のツールを用いて、作業療法士と患者さんが一緒に治療目標をつくることがあります。この評価ツールは作業に必要な4つの要素を示した「人間作業モデル」を応用しており、治療の出発点となる動機づけの分析に役立ちます。

抽象的な意志を見える形に

評価ツールには現状の能力、習慣、意志、環境に関する質問があります。例えば「体を動かす作業が可能か」と質問し、その作業の重要性や、改善したい優先順位などを尋ねます。そして最後に「その作業はどのようなものか」と問うことで、患者さんの現状と理想とのギャップを埋めるために必要な作業が明確になります。作業療法士は質問への回答をもとに面接をし、治療目標や治療へのアプローチを患者さんと一緒に決めていきます。

治療は一方通行ではない

20世紀までは、治療の主導権は医師が握っていました。しかし21世紀からは医師と患者が歩み寄って折り合いをつけていく治療が主流となりました。患者自身が主体的に関わったものとそうでないものとでは、患者側の受け取り方が大きく異なります。
アメリカの精神科医のアドルフ・マイヤーが提唱した考え方によると、作業療法では物(リアリティー)だけでなく、想い(アクチュアリティー)も重要だといわれています。例えば、ある認知症の患者さんはリハビリの一環で塗り絵をしましたが、その作品をなくしてしまいました。認知症では直近の記憶があいまいになります。ところが、「一生懸命取り組んだ塗り絵がある」ことは患者さんの記憶に強く結びついていました。想いを込めて取り組んだ作業は記憶や意志に影響を及ぼし、治療の効果をより高めると考えられています。ただし想いは可視化が難しいので、研究によって評価ツールなどを整備し、臨床の現場に貢献することが求められています。

こんなこともリハビリ? 患者さんと社会をつなぐ「作業療法」

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精神面へのアプローチも

身体的な障がいに直接的なアプローチで治療をする「理学療法」に対して、「作業療法」では精神面へのアプローチも行って治療をしていきます。けがそのものを治すことが目的というよりも、仕事に復帰できるように回復させることを目標としているのです。作業療法における仕事とはお金を稼ぐことだけを指すのではなく、料理や入浴、趣味など日常における作業も含みます。理学療法のリハビリは、歩行訓練など体を動かして努力するイメージがあるかもしれません。しかし作業療法では、編み物や料理などもリハビリ手段のひとつなのです。

化粧も華道もリハビリに

例えば、化粧を習慣にしていた患者さんが、加齢などを理由に化粧をしなくなり、家に引きこもりがちになった事例がありました。その患者さんに化粧を提案し、習慣化させてみると、気持ちが明るくなり外出頻度が上がりました。
また、華道をしていた人が脳卒中で腕が麻痺したという事例がありました。作業療法士は患者さんの生活における華道の重要性を感じ、一緒に華道に取り組むことにしました。作業療法士のつたない手つきを見て、その患者さんは「違う、そうじゃない」と、正しい手順を教えます。これを続けるうちに、患者さんは以前とほとんど同じように華道ができるようになりました。

作業に必要な「4つの要素」

人間が作業を行うときは、やりたいと思う「動機づけ」、日常の中でくり返す「習慣化」、作業をするために必要な「遂行能力」、作業をする「環境」の4つの要素が必要になります。これはアメリカの作業療法士のギャリー・キールホフナーが提唱した考え方で、「人間作業モデル」と呼ばれています。作業療法では各要素を理解することで、一連の治療の効果をより高めることができます。
動機づけに適した作業や役割を見出し、習慣化させることで能力を回復させ、再び社会とのつながりをつくっていく人間作業モデルは、作業療法のさまざまな場面で役立っているのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

どんなことでもいいので、一生懸命取り組んでほしいと思います。私自身は進路を決めるまで回り道をしてしまいましたが、一生懸命取り組んで得た経験は、どこかで役に立つと感じています。失敗してもかまいません。自分の経験を豊かにして、ひとつでもいいので誇れるものを見つけてみましょう。いつか目標が見えたとき、その経験が力になってくれるはずです。
また、自分をわかってくれる人がひとりでもいれば、将来なにがあってもがんばることができると思います。あなたの支えになってくれる人を大切にしましょう。


夢ナビ編集部監修

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