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川淵三郎理事長 挨拶

みなさん、首都大学東京への入学、誠におめでとうございます。そして、ご父兄・ご家族・関係者の皆様にも心からお祝い申し上げます。

学部に入学する皆さんは、小学校から高等学校まで12年間、知識を一生懸命頭の中のノートに一方的に受け身で詰め込んできたということが言えると思います。それは何の疑問もなく、とにかく受動的に多くの知識を頭の中に送り込んできた。しかし、今日から皆さん大学生です。大学生というのは、受動的ではなく能動的な姿勢が必要なわけです。未来へ挑戦していく、自分から物事を解決していくため様々に検討し、どうしたらいい方向に行くのかということを学んでいくのが大学生です。そういった意味で、頭の中の今までの知識のノートの他に、真新しいノートを一冊皆さんの頭の中に置いてほしいと思います。その頭の中には、物事の問題点を自分として把握し、どうしたら解決できるのか、そうしたことの記録をそのノートにいかに多く刻み込んでいくかということだと思います。それは言い換えれば、見識とも言えるものでしょう。人間の見識を養う、培う、そういった意味で大学生としての期間をいかに過ごすか、そこが大事だと思います。論理的な考察力、そして、物事の本質をとらえる、そして、優れた判断ができる能力、そして、他人と友好な協力関係を築く力が大切です。そして、やはり友人をいかにつくっていくのか、人との出会いというものは本当に大事です。こうしたことを見識として備える。だから皆さんに今日お願いするのは、見識を蓄えるもう一冊の新しいノートを頭の中に準備してくださいということです。

私は、昨年1月に、バスケットボールの改革を国際バスケットボール連盟からお願いされました。10年以上も分離したリーグを統合するのは大変なことでした。こうした中で、多くの人の協力を得て、この秋から「Bリーグ」として新しいスタートをきることになっていますが、こういった過去の経緯もあって男子のバスケットボールはオリンピックに40年間も出場していません。選手の登録数はサッカーに次ぐ2位と圧倒的に多いにも関わらず、ほとんどマスコミにもスポーツニュースにも取り上げられない。そういったバスケットボール界に、スポンサーとなってくれる企業はなかなか見つかりませんでした。

様々な人たちがバックアップしてくれて、9月にある大手企業が、「じゃあバスケットボール界を応援しよう」という話が進みました。しかし、結論は12月の役員会で決めるとのことでした。なんで9月に決めたことを12月の役員会まで待つのか。私自身その決定力の遅さにちょっとびっくりしたこともありました。

11月の終わり頃でしたが、始めに支援を申し出てくれた企業よりも数倍高い金額でこのリーグを応援したいという申し出がソフトバンクからあったと、バスケットボール協会の幹部が私に言ってきました。そして、ソフトバンクの孫会長に川淵会長から電話してほしいと言われて、僕は、孫会長に電話しました。孫会長は、「健全な精神は健全な肉体に宿る。だからスポーツというのは大事なんだ。スポーツが発展していくことが世界の平和につながる」というようなお話をいただいて、そして、契約しましょうということで、たった2日で、トップパートナーとして巨額の金額で契約することができました。

僕と孫さんは、今から23年前のサッカーJリーグができる当時になりますけれども、その時に孫さんが「Jリーグの放送権を買わせて欲しい」と言って、私のところへ来られました。もうすでにNHKと契約を済ませていたので、それをお受けするわけにいかなかったわけですが、その時になんと孫さんは、白紙の小切手を僕に差し出して「川淵さん、好きな金額をここに書いてください。」と言われたんですね。しかし、NHKとの契約があったので、失礼がないように孫会長と話しをしたわけです。そういうご縁があって、今回、「川淵さんが頑張っているバスケットボールリーグについて、全面的に応援しようと思う」ということを言っていただいて、その何日後かに一緒に会食しました。その会食の前にバスケットボール協会の幹部から、「日本代表の男子バスケットボールのユニフォームに応援スポンサーが付いていない、何年も空いたままになっているので、孫会長に是非そのスポンサーになって欲しいということを川淵会長から孫会長に頼んでもらえないか」と言われました。僕としても、男子のバスケットボールが40年もオリンピックに出ていないくらい弱い国なわけで、お願いしにくいわけですけれども、何とかユニフォームのスポンサーになってくれませんかとお願いしたんです。そうしたら孫さんが、「関連会社名でよかったら是非、応援したい」と言っていただきました。僕としてはなんとしてもスポンサーになっていただきたいということで、お願いしますと言ったわけです。そしたら孫さんが「わかりました。じゃあ川淵さん、いくらで契約しますか。今ここで言ってください。いくらでも川淵さんが言った値段で契約しましょう」と言っていただいたんです。その瞬間、僕は、ほんの5秒から10秒の間に、どのくらいの金額か分かりませんでしたが、いろんな情報いろんな経験、そういったものを総合して、具体的な金額は言いませんが億の単位で「お願いします」と言ったら、「わかりました、じゃあそれでいきましょう」というふうに、そのユニフォームの広告料が決定したんです。

やはり、そういう“胆識”というか、実際の行動力をともなった見識というのは“胆識”と言うんですが、人間の知識、本質を見抜いて判断ができるそういった見識、そして“胆識”があって初めて社会人として一人前になるわけです。

皆さんはしっかりした見識を大学の間で身に付け、そして社会に出たらそれを行動に移す、そういうものを大学で鍛えて欲しいわけです。ですから先ほど話しをしたように僕はその5秒程度の間に、自分の“胆識”を孫会長から試されたことになるわけです。しかし、その瞬間、僕は判断して、何億円というふうに申し上げました。それが本当に適正な値段だったのか、言い過ぎた値段だったのか、遠慮した値段だったのかと後でいろいろ考えましたけれども、やはり自分が言った値段が一番適正だったなと自分自身納得いたしました。

皆さんのこれからの人生、そういった“胆識”を試される場面というのがいくらでもあると思います。そのためにこそ、これからの大学生活にあたって、頭に新しいノートを用意して、そこにこの4年間なりの期間でしっかりと見識を高め、ためていき、見識をもとに実行する“胆識”といったものをもって、自分自身で決断して実行できるようになってもらえるよう、がんばってほしいと思います。

「新しいノートを頭にもう一冊」これが今日みなさんに僕が贈る言葉です。

皆さん今日は本当におめでとうございました。

平成28年4月3日

公立大学法人首都大学東京 理事長 川淵 三郎

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