本文へ移動します

【研究成果発表】札幌の都市化が気温の長期変化に及ぼす影響の評価

~首都大学東京と北海道大学との共同研究~

 首都大学東京と北海道大学からなる研究チームは、過去27年分のデータに基づいて領域気候モデルを用いた数値実験を実施し、札幌の地上気温に対する都市化の影響を評価しました。その結果、都市化に伴う昇温効果は冬の夜間に強く、夏の日中に弱いという傾向があり、これは季節や時刻によって下層大気の鉛直構造が変化することが原因であることが分かりました。

 また、気象庁による長期観測から推定した都市化に伴う昇温効果でも、数値実験と同様の季節性および時刻依存性が確認されました。

【研究の背景】

  近年世界各地で、地上気温の上昇が報告されていますが、寒冷地域における気温上昇は他の地域よりも強くなる傾向があります。また、気温の上昇率は季節や昼夜によって大きく異なることが知られています。都市域で観測される気温の長期変化には、地球温暖化に伴う広域的な気温上昇に加えて、都市の発達に伴う局地的な気温上昇が含まれているため、両者を区別して評価することで長期間の気温変動の原因解明につながることが期待されます。本研究は、寒冷な気候条件下で200万人規模の人口を有する札幌周辺において、都市化に代表される北海道開拓後の土地被覆変化が気温に及ぼす影響を、長期間の数値シミュレーションから明らかにしました。

【研究の詳細】

 首都大学東京都市環境学部地理環境コース 杉本志織 特任助教、北海道大学大学院地球環境科学研究院統合環境科学部門自然環境保全分野 佐藤友徳 准教授、北海道大学大学院環境科学院環境起学専攻(現 気象庁) 佐々木智規 氏の研究チームは、上記の研究背景をもとに、領域気候モデル※1を用いた数値実験によって、寒冷域で発達した都市が地上気温に及ぼす影響およびその季節性・時刻依存性を評価しました。現在と過去の土地被覆シナリオ(図1)を用いた2種類の数値実験をそれぞれ27年分実施し、気象データを比較しました。

 その結果、都市域における両実験の地上気温差は、夏季よりも冬季に大きく、また日中よりも夜間に大きいことが分かりました。すなわち、都市化は冬の日最低気温を強く上昇させる傾向があるのに対し、夏の日最高気温にはほとんど影響していないことが明らかになりました。この結果は、厳冬期ほど都市化の影響が強く現れるため、都市が発達するにつれて極端な低温事例が起こりにくくなることを示しています。

  このような季節間および昼夜間で異なる都市化の影響には、大気境界層※2の構造の違いが関係していると考えられます。冬季の夜間には、地表付近に冷気が蓄積することで下層大気は強い安定成層となるため、都市化に伴う顕熱フラックス※3の増加が地上付近の大気の薄い層のみを強く昇温させます。一方、夏季の日中には、下層大気の鉛直混合が活発になるため、都市化に伴う顕熱フラックス増加の影響が上空1-2kmにまで達する代わりに、地上付近の昇温量は小さくなります。

  気象庁により観測されている札幌と寿都(すっつ)の地上気温データを比較すると、両地点の気温差は札幌の都市効果を反映していると考えることができます。19世紀末以降の札幌の都市効果は、都市の発達に伴って冬季の日最低気温で強まっているのに対して、夏季の日最高気温にはほとんど影響しないことから、先に示した数値実験の結果を支持することが確認できました(図2)。

●本研究成果は、6月5日付けのJournal of Geophysical Research –Atmospheres-に発表されました。
本研究の一部は、文部科学省気候変動適応研究推進プログラム(RECCA)、グリーンネットワークオブエクセレンス(GRENE)、環境省環境研究総合推進費(S-8)の支援を受けて行われました。

【論文発表の概要】

■研究論文名:Seasonal and diurnal variability in historical warming due to the urbanization of Hokkaido, Japan (北海道の都市化による歴史的な温暖化の季節変動性と日変動性)
■著者:杉本志織(首都大学東京都市環境学部)、佐藤友徳(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、佐々木智規(北海道大学大学院環境科学院、現在 気象庁)
■公表雑誌:Journal of Geophysical Research: Atmospheres (6月5日オンライン版)
■公表日:2015年6月5日(金)(オンライン公開)

 本研究は、過去の土地被覆変化に対して地上気温がどのように変化したのかを明らかにし、気温変化の大きさが大気下層の鉛直構造と密接に関係していることを示しました。寒冷域では地球温暖化や都市化による気温上昇が顕著に現れることが知られています。したがって、信頼性の高い気候予測を行うためには、観測や数値モデルの改良を通じて大気下層の構造を理解することが重要であると言えます。

 一方、地球温暖化に伴う将来の広域的な気温予測に対して、本研究で見積もった局地的な都市効果を加味することで、将来の土地被覆変化のシナリオを考慮した詳細な温暖化予測が可能になることが期待されます。

【用語解説】

※1領域気候モデル

 物理法則に基づいて定式化された方程式系をコンピュータ上で解き、気温や風、降水量など気象要素の時間変化を計算するためのソフトウェアを気候モデルや気象モデルと呼びます。これらのモデルは日々の天気予報や地球温暖化予測などに使用されています。領域気候モデルは対象とする地域のみを高い空間解像度で計算することが可能なモデルです。本研究では図1に示した2種類の土地被覆データを用意し、それぞれについて27年間のシミュレーションを行いました。

※2大気境界層

 地表から高度1-2km程度に形成される大気の層。地表と接しているため地表面の摩擦や加熱の影響を強く受け、季節や時刻によって、また土地被覆等によって大気境界層の構造は時間変化します。

※3顕熱フラックス
 地表面が大気を直接加熱、または冷却するエネルギー。森林から都市へと土地被覆が変化した場合、地表が乾燥化するため水の蒸発に使用されるエネルギー(潜熱フラックス)の割合が減少し、地表面が大気を加熱するエネルギー(顕熱フラックス)の割合が増加します。一般的に、積雪が減少することによる日射吸収量の増加や人工排熱の増加も、都市化による顕熱フラックスの増加に寄与すると考えられます。

参考
ページトップへ