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若林 芳樹 教授

若林 芳樹 教授

都市環境学部 地理環境コース
若林 芳樹 教授

キーワード:
地図, 行動, 地理学

人の行動の地理的な側面を考える「行動地理学」

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地域のイメージと居住地選択

多くの人は、一生の間に進学・就職・結婚などの出来事をきっかけにして、居住地を移動します。そのたびにどこに住むかという選択に迫られ、好みや生活水準に応じて住む場所を選びます。一見、千差万別に見える居住地選択も、まとまったデータを集めると、似たような傾向があることがわかります。例えば、いくつかの国で、「自由に選べるとしたらどこに住みたいか」を尋ねたところ、現住地を除けば、観光・リゾート地を挙げる人が多いという結果が出ています。実際には、仕事や家庭の事情で希望通りの場所に移住できる人は少ないはずですが、情報化が進んで通勤せずに仕事ができたり、定年退職後の高齢者が増えると、地域のイメージが人の移動に大きな影響を与えることになります。

居住地選択の基準は時代によっても変わる

住む地域を選ぶ際の基準は、家族構成や社会の変化にともなって変わります。例えば、ファミリー層の場合、専業主婦が大半を占めた時代には、働き手である夫の職場への通勤を優先して居住地を決める傾向が見られました。しかし、共働きの家庭が増えた現在では、夫婦双方の通勤を考慮して選んだり、小さな子どもがいる家庭では、保育園や学童保育の利用のしやすさを基準に住む地域を選ぶ傾向も見られるようになりました。最近、顕著になった人口の都心回帰には、そうした選択基準の変化も関係しています。

行政の施策にも影響を及ぼす「行動地理学」

居住地選択のような人の行動は、一見、脈絡がなく不可解なものに見えるかもしれませんが、その背景を調べると理にかなったものであることがわかります。また、人の行動を個々に見ただけではわからなかった行動の原因が、地図に表したりまとまったデータとして処理することで、見えてくることもあります。こうした人の行動を地理学的に見ていくのが、「行動地理学」です。行動地理学は、行政の施策やビジネスの戦略を考える上でも重要な学問なのです。

「メンタルマップ」は、頭の中のオリジナル地図

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頭の中に描かれた「メンタルマップ」

ゴールに餌を置いた迷路にネズミを入れて、餌にたどり着く実験を繰り返すうちに、ネズミの頭の中にはゴールまでの地図のようなものが出来上がるという学説が半世紀以上前に心理学で考え出され、のちに生理学的にも証明されています。この例のように、人間を含む動物は、自分の経験や既存の知識などに基づいて頭の中にイメージとしての地図を作り上げ、それをもとに行動します。そうした頭の中に描かれた地図を「メンタルマップ(認知地図)」と言います。

手描き地図からみたメンタルマップの性質

メンタルマップは、実際の地図と同じではなく、また人によって千差万別ですが、共通する特徴もあります。ためしに、あなたが住んでいる街の地図をフリーハンドで描いてみてください。描いた地図と実際の地図を比べてみると、さまざまなズレが見つかるはずですが、同じ街に住んでいる人の描いた地図を集めてズレの傾向を調べると、メンタルマップの性質がわかります。例えば、道案内にも使われる誰でも知っている場所や目印は共通に描かれ、移動の軸線となる川や幹線道路の向きを合わせた系統的なズレが見つかります。そのため、京都や札幌の中心部のように、碁盤目状に道路が走っていて目印がはっきりした地域では、個人差やズレが小さくなるという傾向が見られます。

メンタルマップの性質を生かした地図の表現

メンタルマップの性質は、さまざまな応用の仕方がありますが、その一つが地図の表現です。例えば、北を上にした地図で覚えたメンタルマップをもつ人は、南を上にした地図を見ると違和感を感じます。しかし、地図を使わずに覚えた空間では、そういうことはあまり起きません。このように、地図を使う場面や描かれる範囲によって、わかりやすい地図の向きが違ってきます。進行方向に応じて向きを変えたり、固定した向きに切り替えができるカーナビの地図は、メンタルマップの性質からみて理にかなっているのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

地理学は文系と理系の両方にまたがる学問で、西日本の国立大学では文系の学部に、東日本の国立大学では理系の学部に所属する傾向があります。私自身、学位は理学博士で、理系の学部で教えていますが、出身学部は文学部です。大学入試センター試験でも、地理歴史の科目の中で、文系よりも理系の受験者が地理を多く選んでいます。大学で学ぶ地理学は、高校までの地理の教科内容よりももっと広い対象を扱っています。文系、理系といった区分けにこだわらないで、人間と自然の関わりを幅広い視野から学びたい人たちにお勧めしたい学問です。


夢ナビ編集部監修

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