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久永 眞市 教授

久永 眞市 教授

都市教養学部 理工学系 生命科学コース
久永 眞市 教授

キーワード:
脳, 酵素, 神経細胞(ニューロン)

アルツハイマー病の解明の鍵となる酵素の研究

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タンパク質の働きを制御するリン酸化酵素

人間の身体を作っているタンパク質の役割は、いろいろな形で制御されています。中でも、タンパク質にリン酸基を付加する「リン酸化」は、身体の中で最もよく使われている仕組みです。リン酸化を進める触媒作用をもつ酵素には、筋肉で働くリン酸化酵素、脳で働くリン酸化酵素などいろいろあります。その中で注目されているのが脳で働くリン酸化酵素「サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)」です。

Cdk5の異常活性で神経細胞が死滅

Cdk5は、脳内の神経細胞の働きを制御しており、その機能のひとつが、記憶の再構築です。
人間の記憶は、まず脳内の「海馬(かいば)」という部分に一時的に保存されたあと、大脳皮質に保管され、長期的な記憶となります。Cdk5は、記憶の形成にも関わっていますが、より面白いのは記憶を消す働きもしていることです。Cdk5の活性がじゅうぶんにないと、いつまでも海馬の記憶が消されず、特定の記憶に縛られるようになってしまいます。また逆にCdk5が活性化し過ぎると、神経細胞は死滅してしまいます。アルツハイマー病は、Cdk5の異常活性化が神経細胞死を引き起こしているために起きると考えられています。

アルツハイマー病の予防も夢ではない

この研究がもっと進み、Cdk5の異常活性化を抑えられれば、アルツハイマー病の治療や予防につながることも期待されています。仮に、予防や治療が難しくても、病気の進行を遅らせることは、より近いターゲットとして考えられます。もし、10年で進行する症状を15年に延ばすことができれば、本人はもちろん、その人を支える社会にとっても負担は減るため、その意義は大きいと言えるでしょう。また、ネズミを使った実験では、Cdk5の一部を減らすと、ネズミが元気になったことから、この酵素とADHD(注意欠陥・多動性障害)との関連性についても、関心が高まっています。

脳の神経細胞の働きをつかさどる酵素「Cdk5」

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脳神経回路をつなぐ酵素

脳の神経細胞の数は、1000億個以上あり、神経細胞は、脳内の特定の場所で、長い突起を伸ばして、別の神経細胞と連絡して回路を作ります。その際、各神経細胞がどこの場所で、どんな回路を作るかを指示しているのが、「サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)」という酵素です。神経細胞同士の連絡が正しくなされないと、脳は正常な機能が果たせません。Cdk5は、脳の形成や活動において極めて重要な役割を担っている酵素です。

記憶の再構築を担う

脳の神経回路では、刺激が決まった流れで伝達されることが重要で、この流れは神経細胞の形と神経細胞間の接合部「シナプス」によって決められています。シナプスを介して神経細胞同士が情報のやりとりする際、どの程度の刺激があれば、情報交換をしていいのかをCdk5が決めているのです。
また、Cdk5は、記憶の形成、記憶の消去にも関係しています。記憶は、脳内のある場所にまず保管されるのですが、いつまでも同じ記憶を置いておくと、ほかの記憶が入らなくなるため、必要がなくなった記憶は、別の場所に移され、もとの場所の記憶は消去されます。その消去をするのも、Cdk5なのです。

「Cdk5」を手掛かりに脳の仕組みを知る

さらに、Cdk5は、脳の死とも関係があります。皮膚や肝臓など、身体のほとんどの組織の細胞は、常に入れ替わっており、1~2年すると、ほとんど全部が入れ替わりますが、神経細胞は、ヒトやネズミが生まれた時から死ぬまで同じで、加齢とともに少しずつ減っていきます。神経細胞が急激に減ると、アルツハイマー病のように記憶障がいが引き起こされるのですが、そうした神経細胞の急激な減少の一因となっているのが、Cdk5の異常活性だと考えられています。
このように、Cdk5は、脳の誕生から死までに影響を及ぼす重要な酵素であり、この働きを正常に保つことが、脳の働きを正常に保つ上で重要になります。また、この酵素の働きを解明することは、脳の仕組みを解明することにもつながるのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

子どもの頃から謎解きが好きだった私は、今も推理小説を読んだり、推理ドラマを見たりしますが、「謎を解く」という意味では、生命科学は推理小説よりもずっと面白い分野です。生物の世界には、生物の数の何万倍も謎がありますが、その謎の解明の歴史は始まったばかりです。生命科学を学ぶことで、自分だけの謎を見つけ、それを解き明かす挑戦もできます。そして、その謎が解明できれば、科学史に自分の名前を残せるかもしれません。不思議がたくさんつまった生命科学の謎解きにあなたもチャレンジしてみませんか?


夢ナビ編集部監修

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