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伊藤 眞 教授

伊藤 眞 教授

都市教養学部 人文・社会系 社会学コース
社会人類学分野
伊藤 眞 教授

キーワード:
身分, インドネシア, 結婚

身分と性という「境界」から見るインドネシアの地域社会

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人間社会にある「境界」

社会人類学は、人間社会を成り立たせる基本的枠組みを理解するための学問です。では基本的枠組みとは何でしょう? それを、「境界」という語をキーワードに考えてみましょう。人間社会にはさまざまな境界があります。例えば、性、身分、集団などです。人々は通常、決められた境界の中で暮らしますが、その境界に満足せず、それを乗り越えようとする人々もいます。インドネシアのスラウェシ島ブギス社会を例にとりましょう。

境界を越える結婚戦略とトランスジェンダー

ブギス社会は今日でも貴族・平民という身分意識が強く認められます。身分が意識されるのは特に結婚です。貴族女性は、平民男性とは結婚してはならないという社会的規則があります。しかし、こうした規則に挑戦しようとする平民男性が必ず現れます。ブギス社会はそうした男性のために、例外を設けていました。つまり、経済力、勇敢さ、学識、そのいずれかが秀でていれば、貴族女性との結婚が時に認められうるということです。例外になることを通じて、平民男性でも社会地位を上昇させるチャンスをもったのです。
また、文化によって、男らしさ女らしさの定義は異なります。ブギス社会では、男性は常に強くあらねばならないと考えられています。しかし、女性的な男性を、「心の性」をもとに一般男性から区別します。心の性と男性的生き方とがそぐわない男性は、女性的生き方を選びとり、また社会もその生き方を認めるのです。そうした男性(トランスジェンダー)はしばしば女装し、結婚式の仲介役を務めます。村の市場のような公的空間でも見かけることが珍しくありません。

社会秩序と流動性

境界は社会的な秩序を支えるものですが、人間とは境界をはみ出そうとする存在です。平民男性は身分の境界を越えようとし、「心の性」と身体に不一致を感ずる人は、「心の性」を優先します。ブギス社会は身分制を残す点で保守的ではありますが、境界を超えることを許容しています。それが社会を流動化させ、活性化させるもとにもなっているのです。

インドネシアからの家事労働者と移民研究でアジアを知る

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アジアで盛んな移民

日本は海外の非熟練労働者を受け入れていないので、移民はなじみの薄い存在ですが、アジア諸国では、移民の往来が盛んで、シンガポールは人口の35%が移民で、一方、インドネシアからは毎年100万人もの若い女性が家事労働者として中東、マレーシア、シンガポール、香港、台湾などに行っています。彼女らの外貨獲得は国家財政を大きく支えるほど重要です。労働移民の多くが女性によって占められる現象は「移民の女性化」と呼ばれています。

家事労働者の背景とその実態

インドネシアで海外への移民女性が急増するのは今から20年ほど前からです。その時期、先進諸国に仲間入りしつつあったシンガポール、香港、台湾では、女性の社会進出が急速に進みました。既婚女性も会社勤めをするようになると、当然家には幼い子どもや老親が残されます。留守中、彼らの面倒を見る家事労働のニーズが生じ、そこへ途上国の女性労働が向かうことになったわけです。
家事労働者の待遇は、アジアで香港が最もよいと言われています。外国人労働者組合が認められ、有給休暇も法律化されています。インドネシアとフィリピンからの労働者がもっとも多く、休日には公園や駅周辺に集まります。そこで彼女たちは、会話や食事を楽しむだけではなく、簡易労働相談所、労働条件改善アピール集会、宗教活動、文学活動などにも関わっています。このような活動を通じて、母国の暮らしとはまったく違う生活、世界があることを経験していきます。

女性移民が変革の原動力となる

移民することは、帰属する社会の「境界」から離脱することで本人の人生を変えていく可能性があります。一攫千金を夢見つつ故郷を離れることは古くから男性中心に行われてきました。しかし、女性の労働移民は、世界的な労働分業の結果生じたものです。移民という経験は経済的収入ばかりではなく、思想、生活信条にも影響を与え、新しい女性を生み出していきます。そうした海外経験をもつ女性たちが自分の属する社会の将来を変えていく一端を担っていくのです。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

高校の勉強ではいつも正解が求められます。しかし、大学の勉強はそうではありません。社会的現象には、そもそも正解がなく、重要なのは自分の思考で問題を見つけ出すことです。異文化に関心をもつことが大切です。海外に行くのを面倒がる人もいますが、海外で考え方や宗教の異なる人たちと話し合うのは、本来楽しいことで、そこには自己発見の可能性が秘められているのです。ひょっとして、日本ではネクラといわれるあなたが、海外では人気者になるかもしれません。今ある現実から一歩踏み出す勇気を持って勉学することを期待しています。


夢ナビ編集部監修

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