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石川 知広 教授

石川 知広 教授

都市教養学部 人文・社会系
国際文化コース 欧米文化論
フランス語圏文化論教室
石川 知広 教授

キーワード:
ブレーズ・パスカル, 思想家, 信仰

パスカルの『パンセ』をめぐる謎

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パスカルは『パンセ』の著者ではない?

「人間は考える葦である」という言葉を耳にしたことがあると思います。パスカルの『パンセ』に出てくる有名な言葉です。しかし、実はパスカルは通常の意味で『パンセ』の著者とは言えないのです。これは一体どういうことでしょうか?
パスカルは若い頃から病気がちでしたが、晩年の数年間、病と闘いながらある宗教的著作の準備を続けていました。しかし、結局39歳の若さで亡くなったため、著作は未完に終わりました。残されたものは、大小さまざまの紙片に記された大量の下書きで、それが数十の束に分類してとじられていました。これらのメモ(断章)を集めたものが、今日『パンセ』と呼ばれる書物なのです。

謎解きとしての編集作業

驚くべきことに、このパスカルの遺稿は、自筆のメモを貼りつけたアルバムの形で今も残っています。ただ、製作の過程で断章をバラし勝手に並べてしまったために、もとの配列は失われてしまいました。しかし、代わりに遺稿発見当時の姿をそのまま保存した2種類の写本が残されています。こうして本文については原本、配列については写本という2本立てで『パンセ』の活字化が行われて来ました。しかし、草稿断片の単なる集積は著作とは呼べません。そこで著者が意図した幻の著作の姿を探る研究が不可欠になります。目次を表すメモや紙のとじ穴の位置などから断章の配列を復元したり、用紙の透かしやインクの違いから執筆年代を推測したりする試みが行われるのです。パスカルがどんな書物を構想していたのか、その謎への挑戦が『パンセ』の編纂作業でありまた研究である理由です。

神の啓示が動機?

パスカルが死んだ時、一枚の紙片が服の襟に縫い込まれた形で発見されました。そこにはパスカルが神の啓示を受けたことを示唆する体験らしきものが記されていました。パスカルは自分がある特別な目的のために神に召されたと考えていたのかもしれません。このような神秘性も加わり、パスカルの頭の中にあった著作の完成形は、永遠に解き明かせない謎なのです。

数学、物理学、文学、実業家! 天才パスカルを支えたものとは?

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英才教育を経て16歳で数学者デビュー

パスカルは思想家、物理学者、数学者と多彩な才能を持った人物でした。その天才的な能力は、当時のフランス社会のあり方にも深く関わっています。17世紀のヨーロッパでは富裕な商人が力を持ち、平民にもかかわらず司法・行政官僚として貴族の称号を得たりする者も出てきました。彼の父も税務関連の司法官でした。
パスカルは学校には行かず、幼少期から父による英才教育を受けていました。早熟の天才で、わずか16歳で当時最先端の数学論文を書き、一流の数学者の仲間入りを果たしたほどです。数学上の難問について、「フェルマーの大定理」で知られるピエール・フェルマと対等に議論をかわした書簡も伝存します。気圧単位「ヘクトパスカル」や「パスカルの原理」など、物理学の歴史にも大きな足跡を残しています。

実業家やベストセラー作家としての顔も

パスカルには実業家の才能もありました。「乗合馬車」を最初に考案したのはパスカルです。それまで馬車は貴族や金持ちの贅沢な乗り物でしたが、停車場に決まった時間に行けば誰でも乗れ、それぞれの目的地に行けるシステムを考案、実用化しました。まさに現在のバスの祖先です。大規模な干拓事業への投資なども行っています。また匿名で、当時の教会の腐敗を喜劇仕立てで書いた『プロヴァンシアル』という風刺書簡は、大ベストセラーになりました。

精神的な柱は神への信仰

現在『パンセ』として知られる草稿群は、「神なき人間は惨めで、神と共にある人間は幸福である」という考えを、宗教に懐疑的な人たちに突きつけ説得するためのものだったと言われます。パスカルの周囲には、科学上の知識から聖書の記述を否定したり、富や権力ゆえに神の教えに反する行いをしたりする人がいました。そうした進歩的で社会的地位のある人たちが、慢心から神をおろそかにすることへの警告です。パスカルは、宗教の真理とは人間の理性で割り切れるものではないという考えを深く持っていて、神への信仰が彼の活動を支える柱だったのかもしれません。

高校生・受験生の皆さんへのメッセージ

大学は何よりも学術と知恵の探求の場です。学術は、技術として人間生活の改良・向上に役立ちますが、副作用や弊害も少なくありません。特に最先端の学術にはそれだけ大きな危険がともないます。知恵は、こうした知の発展にともなう恐るべき副作用を正確に認識し、人間の文化の全体のうちに正しく統合する働きなのです。こうして学術と知恵は、社会を豊かでかつ正しい方向に動かす両輪として、ともに手を携えて進まなければならないことがわかるでしょう。その双方を探究する大学という場所で、ぜひあなたも学んでください。


夢ナビ編集部監修

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